内閣府「第9回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」によると、60歳以上の男女が生きがいを感じる瞬間として最も多くあがっているのが「子供や孫など家族との団らん(55.3%)」でした。もっとも、なかには“子に怯える親”もいるようで……。子が成人を迎えた後の親子関係の難しさについて、とある老夫婦の事例をもとにみていきましょう。牧野FP事務所合同会社の牧野寿和CFPが解説します。
もう来ないでくれ…「年金月23万円」「貯金6,000万円」60代夫婦が10年後に漏らした後悔。大好きだった息子に“怯える日々”を過ごすワケ【CFPの助言】
息子Cさんは大助かりも…A夫婦の家計は“火の車”
「10年間で5,000万円も資金が減ってしまい、このままじゃ援助どころか自分たちが死ぬまでに破産してしまうんじゃないかと思いまして……Cに『もう来ないでくれ』と言えたらどんなに楽か」
一連の経緯を切羽詰まった顔で話す夫婦に、FPである筆者はまず、2人の現在の家計収支を確認することにしました。
現在のA家の家計支出は月28万円で、年金収入は月23万円ですから、当面毎月5万円の赤字となり、その分貯金も減っていきます。2人とも懸念しているように、これ以上援助を続けては家計が破産しかねません。
夫婦はこれまで、家計の3大支出といわれる「住宅費」「教育費」「老後資金」のうち、息子家族の「住宅費」と「教育費」のほとんどを援助してきました。おかげで孫の学費は賄え、息子も住宅ローンを完済できたとのこと。息子は大変助かったでしょうが、夫婦の生活が傾いては元も子もありません。
まずは息子に自分たちの家計の現状を話し、これ以上の援助はできないと腹を割って話すべきでしょう。
夫婦の家計収支を可視化し、上記について冷静に話すと、夫婦は「……そうですね。一度考えてみます」と言い残し、肩を落としてFP事務所を後にしました。
意外とできない人が多い?優先順位は「自分たちの生活」が一番
その週末、A夫婦はCさんを呼び出し、意を決して家計の現状を話しました。すると「そんなに父さんや母さんが苦しんでいるとは知らなかった」と驚いた様子。それから援助の依頼はぴたりと止まったそうです。
親が愛する子や孫の願いを叶えてあげたいと思うのは当然のことです。しかし資金援助は、あくまでも自分たちの生活が成り立つ範囲内で行うことです。必要ならば、具体的な援助できる金額を話してもよいでしょう。
“おねだり”といわれるがままの援助を今後も続けていれば、やがてDくんが大人になって家庭を持ったとき、Cさんが同じ目に遭う可能性もあります。“負のループ”を生まないためにも、たとえ親子であっても金銭に関する線引きはきちんと設けることが重要です。
牧野 寿和
牧野FP事務所合同会社
代表社員