退職金を手にすると、甘い言葉で近づいてくる金融マン。その手口を見破ることは、あなたの老後の資産を守るために不可欠です。本記事では、山口一夫氏の著書『シニアライフの人生設計』(ごきげんビジネス出版)より、金融機関や営業マンが勧めてくる金融商品の本質を紐解いていきます。
悠々自適な老後を送るはずが…「退職金の3分の1を失いました」銀行員にみせられた“3か月間限定”の甘い夢。平日午前中にコンビニでアルバイトする60代元サラリーマンの無念
高齢者に大ヒットした金融商品の本質
毎月分配型の商品とは、投資家に定期的なキャッシュフローを提供するために設計された商品です。毎月の給与収入がなくなり、2か月に1回の年金生活を送っているシニア世代にとって毎月配分型の商品は魅力的でしょう。
毎月分配型の投資信託は、超低金利が続き、預貯金による資産運用では我慢できなくなった高齢者を中心に1990年代の後半から大ヒットした商品です。当時の投資信託会社間では、高額な分配金を払い出すため分配金の払い出し競争が激化しました。
その結果、高リスクの海外債券や規制緩和によって利用が可能となった、デリバティブ取引、外国籍私募ファンド、などへの投資が行われたのです。これらの商品はリーマンショック後の市場の混乱で大幅に元本割れするものが大量発生し、社会問題となりました。
いずれの商品も契約時には高い分配金が謳われていますが、市況や環境が悪化すると当初の分配金が削減されることもあります。各ファンドは高い分配金を確保するため、元本を削減してまでも高い配当を維持しようとします。しかし、いよいよ分配金の維持が難しくなると、ファンドマネージャーはファンドの閉鎖を決定するのです。
歴史は繰り返されるといいますが、ネット上には現在も毎月分配型の商品が多く出てきているので、くれぐれも注意してください。
どこの金融機関も勧める「ラップ口座」
「ラップ口座」とは、投資家が設定した投資目的に基づいてプロのファンドマネージャーに資産管理を一任する仕組みです。各金融機関の経験豊富なファンドマネージャーが資産を運用します。これにより、私たち個人投資家は自らの運用能力に頼るのではなく、専門家の知識と経験を利用できるのです。
いいことずくめのように聞こえますが、当然お金がかかります。管理手数料と称して年間3%近いコストがかかります。逆算すればわかることですが、3%近いコストがかることは、専門家に運用をお願いしても運用益が3%以下の場合は自分のリスクで資産の目減りを覚悟しろ、ということです。
近年ではどこの金融機関もラップ口座を勧めてきます。その理由は、金融機関にとって大変魅力的な口座だからです。相談のプロセスでお客さまの全金融資産を可視化できるのですから、営業戦略上とても効率がよいことになりませんか。ましてやシニア層の場合、退職金も含め若い世代と比べ多くの資産をもっているわけですから、ますます狙われます。
退職したばかりで多くの金融資産をもち、おまけに投資についてほとんど経験と知識の乏しいシニア層は、金融機関の営業マンにとってまさに格好の狙い目なのです。実際の被害に遭わないまでも、ここで挙げたようなセールス手法にてアプローチを受けた経験をおもちの方も多いのではないでしょうか。
お金についてはいろいろな考えがあると思いますが、シニア世代にとっては投資や運用によほど自信がある人を除いて、自らが働くこと以外で金融資産を大きく増やそうとするのは危険だと思いますので、くれぐれもご注意ください。
山口 一夫
ライフデザイン講師