食生活が乱れることで栄養不足になり、筋肉が減ることで、糖尿病を進行させる悪循環を引き起こすことがあります。また、これは便秘や冷えの原因にもなるのだとか。糖尿病専門医である大坂貴史氏の著書『血糖値は食べながら下げるのが正解』(KADOKAWA)より、サルコペニア肥満について詳しくみていきましょう。
やせているけれど体脂肪率の高い「隠れ肥満」が発症しやすい〈サルコペニア〉の危険性【糖尿病専門医が警告】
高血糖が筋肉をやせさせる
「筋肉が少ないと血糖値が上がる理由がよくわかりません」
「血液中の糖分である血糖をエネルギーとして使う大切な器官が筋肉だからです」
「えっと……?」
「筋肉を動かすときにはエネルギーが必要です。そのエネルギー源として、血液中の糖を取り込み、エネルギーに変えています。だから筋肉が少なければ、エネルギーとして使われる糖が少なく、血液中の糖を減らしにくいというわけですね」
「なるほど」
「それだけではないんです。先ほど体脂肪率が高いとお伝えしましたが、横田さんの体脂肪率は33.9%でした。女性では体脂肪率が30%以上だと、いわゆる肥満体系ではなくても“隠れ肥満”という状態です」
「私、肥満なんですか!?」
「そうですね。筋肉はやせているけれど、脂肪が多い状態です。するとやせた筋肉繊維の隙間に脂肪が入り込んで、“牛肉のサシ”のようになってくるんです」
「やせていても肥満だっていうんですか?」
「そういうことです。サシが入った筋肉では、血糖を取り込む仲介をするインスリンというホルモンが効きにくいんです。だから、血糖値が下がりにくくなります」
「そんな……。初耳です」
「高血糖だと、さらに筋肉を弱らせる悪循環も起こります」
「どういうことですか?」
「エネルギーが筋肉に届きにくくなるのです」
「……?」
「インスリンは、血糖を筋肉に取り込む手助けをするホルモンだとお伝えしましたね?」
「はい」
「高血糖が続くと、インスリンが効きにくくなる『インスリン抵抗性』が高くなりやすくなります。インスリン抵抗性が高いと筋肉に十分なエネルギーが届かないので、筋肉を作ったり維持したりする力が落ちるのです」
もう言葉が出ない。
「さらに、高血糖が続くと、体はエネルギーを得るために筋肉を分解しやすくもなります。特に糖尿病を持つ方はエネルギー不足の状態になることがあり、そのときに筋肉のたんぱく質が分解されてエネルギー源として使われます。これが、筋肉が減る原因になります」
「……」
「昨今、『サルコペニア』に加えて、糖尿病をはじめ、高血圧や脂質異常症などを悪化させる『肥満』が重なった状態である“サルコペニア肥満”が危惧されるようになっています」
「サルコペニア肥満……?」
「体脂肪率32%以上で、骨格筋のSMIも少ないと、“サルコペニア肥満”と考えられます。普段の活動量が少ないために食欲や食事の量が低下していたり、ふくらはぎが細くなってくるのも兆候です」
「ほぼ私のことですね……」
「若い頃と体型が変わらないことが問題を大きくします。筋肉が脂肪に置き換わっただけなので、肥満度を示すBMIは標準ということが多いからです。しかし気づかないうちに“サルコペニア肥満”になっていて、糖尿病を進行させる引き金になることがあるんです」
〈先生からの処方箋〉
筋肉が減ると血糖値は上がりやすく、高血糖が続くと筋肉が減るという悪循環が起きる
大坂 貴史
糖尿病専門医・指導医
総合内科専門医