若手人材の獲得競争が激化するなか、初任給の引き上げが話題となりました。しかし、その陰で定年が近づくベテラン社員たちから聞こえてくるのは、複雑な思い。「会社は若い世代ばかりを重視するのか?」「長年の貢献は何だったのか?」と。総務省統計局の「令和6年賃金構造基本統計調査」によると、45歳大卒の平均年収は約717万円で、ボーナスを除いた月給ベースでは約46万円です。この憤りの背景には、会社と社員双方のキャリアに対する意識のずれがあるのかもしれません。本記事では、宮島忠文氏・小島明子氏の著書『定年がなくなる時代のシニア雇用の設計図』(日経BP 日本経済新聞)より、ミドル・シニアと会社側の思惑のあいだに生じているギャップを探っていきます。
平均月収46万円「45歳大卒サラリーマン」憤慨…新卒社員給与引上げの犠牲になる「定年控えたミドル・シニア」の不憫
会社は本当に裏切っているのか
会社は常にミドル・シニアの活躍を願っている
では、本当に会社はミドル・シニア人材を裏切っているのかといえば、そんなことはありません。確かに「若者中心」の議論が多く、ミドル・シニアから見れば疎外されている感じも受けるかもしれません。しかし、多くの会社は、これまで教育のためにお金と時間をかけており、なんとかミドル・シニアに活躍してもらおうと努力していることは間違いないのです。
では、なぜこうしたミドル・シニア人材たちのネガティブな感情が起こってくるのでしょうか。以下では、その辺りを深掘りしていくことにします。なお、将来性からいえば、確かに若者は重要ですが、日本社会において45歳以上のミドル・シニアは、就労者全体の約6割を占めています。今後も、少子高齢化に伴い、この比率は増加することが見込まれるなか、若者中心の議論は見直すべき段階にあると思われます。
日本のビジネスパーソンの欠点
この問題を考えるうえで知っておかなければいけない大きな原因として、「キャリア自律」という概念が理解されにくいことがあると考えます。キャリア自律とは、1990年代半ばに米国で提唱された概念です。Waterman,Collard,&Waterman(1994)によれば、自分のキャリアを管理するのは従業員個人の責任であり、一方で会社側には、従業員にキャリア開発の機会を提供する責任があることが指摘されています。
そして現在は、従業員個人がキャリア自律をすることによって、組織としても競争力を高めていく必要性が求められています。よくモチベーション低下のきっかけとして挙げられるのは、組織内での昇進や昇格に対する行き詰まり感、役職定年、加齢などですが、筆者(宮島)が現場で一番の原因として感じるのは、キャリア自律の低さです。キャリア自律など、そもそも考えたこともない、あるいは機会がなく気づいていない人が大多数なのです。
キャリアを意識して行動してきた先輩を見たことがないというのも大きな要因です。これは急速に定年年齢が延びているなかで、ロールモデルが存在しないことに起因します。したがって、キャリア自律への意識が低いことを責めることはできません。