ミドル・シニア世代が、自身の経験を活かして若手を育成したいと考えるのは、組織の新陳代謝を促すうえで重要な側面です。しかしその意欲が、時に期待される方向とは異なる形で現れてしまうこともあるようで……。口頭での指導に偏り、自ら率先して行動で示すことを怠ると、若手の成長を阻害するだけでなく、自身の評価への悪影響にも繋がりかねません。本記事では、宮島忠文氏・小島明子氏の著書『定年がなくなる時代のシニア雇用の設計図』(日経BP 日本経済新聞)より、ミドル・シニアが陥りがちな「若手育成」の誤解と、会社が本当に求めるベテランのあり方について考察します。
昭和的と思われがちだが…一周回って「背中で見せる」若手育成が会社にも後輩にも求められている理由
会社が求める「働き続けてほしい人」の特徴:育成は背中を見せる
若手を育てたがるミドル・シニア
ミドル・シニアになると、若手を教育する立場に就きたいという人が増えます。これは、発達心理学において「世代継承性の課題」といわれる一般的な現象です。その若手を育成したいという考え方自体は健全なのですが、その方法は口頭で教えることだと勘違いしている人が多いのです。会社、あるいは若手から求められる人はそうではありません。現場で自ら積極的に仕事をして成果を出す、そういう仕事の姿勢を見せることが重要なのです。
そもそも少子高齢化により、数の少ない若手に多くのご意見番がつくようでは業務の阻害をしていることになります。まずはミドル・シニア自らが手を動かして価値を創造する、その役割から逃げずに後進の育成に取り組むことが必要です。ここでは先に事例を見ていただいたほうが分かりやすいと思います。
「成長の場を創り上げる」ことに徹したマネージャー
1つ目の事例は、マネージャーとなった際に、その最も重要な役割は若手の育成だと考え、その方法として若手のスキルが向上する場を創ることに注力した人です。現在の職場においてどのような仕事をアサインすれば成長するのかを考え、若手と話し合い、実際にアサインし、一方で若手の成長にあまり貢献しない作業は自らが引き受けるように心がけておられました。
「成長の場を創り上げる」ことに徹したケースです。
「柔軟に立場を変え」メンバーを育成したリーダー
2つ目の事例は、立場を柔軟に変えられる人です。この方は組織の目標達成のために若手では難しい仕事は引き受け実際に行うことで、どのようにすれば成功するのかを見せました。同時に、一方ではリーダーシップ(この場合、職位にかかわらず組織をリードするのでフォロワーシップということができます)を発揮し、組織全体の成果が出るように振る舞いました。場面によっては現場で直接手を動かす、場面によってはリーダーとして活動する、これを実践された方です。
「柔軟に立場を変え」若手をはじめとするメンバーを育成してきたケースです。
宮島 忠文
株式会社 社会人材コミュニケーションズ 代表取締役社長
小島 明子
株式会社日本総合研究所 創発戦略センター スペシャリスト
