年齢を重ねるごとに、記憶力や情報処理能力の低下は避けられません。しかし、それはシニア社員の価値が下がることを意味するのでしょうか? 問題の本質は、会社がシニア社員の「新しい能力」に気づき、適切な活躍の場を提供できているかどうかです。本記事では、宮島忠文氏・小島明子氏の著書『定年がなくなる時代のシニア雇用の設計図』(日経BP 日本経済新聞)より、組織におけるシニア社員の再定義を提言します。
シニアの「低下する能力」「向上する能力」
老化を止めることはできません。しかし一方で、年齢を重ねるごとに向上する能力があります。「老化」と「能力低下」は必ずしも連動するものではありません。
それでは、会社はシニアに対して、どのような仕事(の場)を提供していけばよいのでしょうか。どのような仕事を提供すれば、シニアは活躍できるようになるのでしょうか。まずは能力面と、それに基づく貢献の仕方から改めて整理してみましょう。
能力面については、記憶力や情報処理能力は低下していきます。しかし、日々蓄積される知識の量、知識の質、視覚的長期記憶、見た目の重厚感や落ち着き、社会的なルールの認知、企業内での存在感などは向上していきます。したがって、これまでの業務経験を活かすことのできる領域は必須となります。また、対外的な交渉にも向いていることになりますし、組織を円滑に動かすことも可能です。
挑戦には否定的に、自慢は過剰に
一方で、新しいことに取り組むことには否定的になる、自身の存在感を誇示したくなるといったマイナス面も考慮する必要があります。これらの能力を活用し、同時にマイナス面をコントロールしている人は、結果的に次のような領域で活躍することができています。
1.今までの経験を基に高い問題解決能力を有し、危機的状況にも対応することができるようになる
2.対人作法や交渉力の高さから人間関係を調整することができる
3.広い視野で物事を観察できる。落ち着いて冷静な判断ができる
4.フォロワーシップにより組織を円滑に運営することに貢献できる
これらの能力面と貢献の仕方から考えるならば、どのような仕事の任せ方になるのでしょうか。
大前提としてまず考えなければならないのは、シニアの「会社における役割」の定義(再定義)が必要であるということです。なぜならば、各論から入ってしまうと活躍の範囲が限定されてしまい、会社の実態に合わないものになりがちだからです。ほとんどの社員が65歳まで働くという新しい環境において参考とすべきロールモデルが存在しないのですから、どうあるべきかという指針が必要だということです。
宮島 忠文
株式会社 社会人材コミュニケーションズ 代表取締役社長
小島 明子
株式会社日本総合研究所 創発戦略センター スペシャリスト