若手人材の獲得競争が激化するなか、初任給の引き上げが話題となりました。しかし、その陰で定年が近づくベテラン社員たちから聞こえてくるのは、複雑な思い。「会社は若い世代ばかりを重視するのか?」「長年の貢献は何だったのか?」と。総務省統計局の「令和6年賃金構造基本統計調査」によると、45歳大卒の平均年収は約717万円で、ボーナスを除いた月給ベースでは約46万円です。この憤りの背景には、会社と社員双方のキャリアに対する意識のずれがあるのかもしれません。本記事では、宮島忠文氏・小島明子氏の著書『定年がなくなる時代のシニア雇用の設計図』(日経BP 日本経済新聞)より、ミドル・シニアと会社側の思惑のあいだに生じているギャップを探っていきます。
平均月収46万円「45歳大卒サラリーマン」憤慨…新卒社員給与引上げの犠牲になる「定年控えたミドル・シニア」の不憫
ミドル・シニアで「キャリア自律への意識が高い人」の共通点
では、キャリア自律への意識が高いのはどんな人なのでしょうか。
その多くは、「失職するおそれがあるくらいの修羅場」を経験しています。例えば、「健康面でこの先の人生がないかもしれない」「企業の倒産の危機等に直面した」といった経験です。自身が直接経験したこともあれば、近しい人が直面するのを目の当たりにした経験も挙げられます。安全な環境の下で「仕事で大変な思いをした」という程度では、キャリア自律を意識するほどの危機とはいえません。仕事を失うかもしれない、究極は命を失うかもしれないという経験をした人が、自分の生きざま(キャリア)を意識している傾向があります。
実際にこのレベルの修羅場になると、多くの人が体験できるものではありません。ゆえに、そこにもキャリア自律を意識しない原因があります。そのようなことに加えて、
1.自身の進路について意思決定をしてこなかった点(意思決定のあきらめ感)
2.プロとしての業務レベルに疑問を感じることがなかった点――すなわち、キャリアの在り方を考えるきっかけがなかった点
も挙げられます。このようなことが起こる最大の原因は「流動性の問題」にあるといえます。ここでいう流動性というのは転職や全く異なる職場に異動するということではなく、「仕事を自らの意思で獲得していく機会」のことです。
同じ仕事を続けることに問題はありませんが、重要なことは職務決定の際に自身で決められる機会と自己決定が伴うことです。
宮島 忠文
株式会社 社会人材コミュニケーションズ 代表取締役社長
小島 明子
株式会社日本総合研究所 創発戦略センター スペシャリスト