「平等への固執」が争いを生む?…揉めない相続のカギは

今回の事例のように、親の介護の有無をきっかけに揉めるケースは少なくありません。

この背景には、しばしば「長男が家を継ぎ、家を相続するのが当然」とする旧来の価値観と、現行制度に基づく平等な相続を主張する「法定相続分」という権利意識とのあいだにある深いギャップが存在します。

今回の事例においても、健太さんと美咲さんは12歳差の兄妹であり、その価値観の相違が一因にあると考えられます。

一見すると、古い価値観を持つ兄のほうに問題があるように見えるかもしれません。しかし、実際には「相続と介護は切り離せないもの」と覚悟をもって親の介護を担ってきた長男に対して、「介護は任せるが、遺産は平等に」と主張する妹の立場には一定の疑問が残ります。法律上の権利が平等である以上、負担もまた平等であるべきです。

とはいえ、それぞれに事情があり、平等な負担というのは現実的ではありません。そこで、「公平」という視点がこの問題を解決するカギとなります。

介護のみならず、生前の貢献度(寄与分)や援助(特別受益)は兄弟姉妹でそれぞれ異なるのが普通です。

遺産を公平に分けるためには、「生前よく貢献したから多くもらってね」「たくさん援助してもらったから遠慮するよ」という譲り合いの気持ちが必要です。しかし、これを相続人同士の話し合いだけで成立させるのは難しいでしょう。

そこで、「遺言書」の存在が重要になってきます。本来、生前の「してあげた」「してもらった」を考慮し、「公平」に財産を残せるのは当事者の親にしかできないことだからです。

たとえ“平等”ではなくとも、なぜそのような遺産の分け方にするのか、その理由や想いが伝われば、子どもたちは納得しやすくなり、不用意な相続トラブルを回避することができるでしょう。

遺産は「その人が生きた証」…双方の“思い”が円満相続に

今回、正式な「遺言書」はありませんでしたが、父の思いを知る前と後で、相続人の気持ちに大きな変化があったことはいうまでもありません。

遺産は単なるお金やモノではなく「その人が生きた証」です。だからこそ、親は遺言書を通して思いを残し、子は感謝の気持ちでそれをくみ取ることできれば、円満な相続に1歩近づくことができるでしょう。

山原 美起子
株式会社FAMORE
ファイナンシャル・プランナー(CFP/1級ファイナンシャル・プランニング技能士)