相続トラブルの多くは、故人が生前対策を怠ったことで発生します。ただ、たとえば「遺言書」さえあればすべて上手くいくのかというと、どうやらそうでもないようです。今回紹介する高橋家は、亡き父の遺言書が「2通」見つかりました。そしてこの2通の遺言書をめぐり、驚きの事実が明かされるのでした。相続で揉めないための「遺言書」のポイントについて、山﨑裕佳子FPが解説します。

あなたたち、お父さんがみていますよ!…亡き父の「現金1億円」は誰のもの?遺産分割協議で“豹変”した愛するわが子に80歳母が涙。原因は父の書斎で見つかった“2通の遺言書”【FPの助言】
登場人物
故人:高橋正さん(仮名・享年85歳)
妻 :保子さん(仮名・80歳)
長男:浩一さん(仮名・56歳)
次男:修二さん(仮名・53歳)
長女:恵美さん(仮名・44歳)
資産家の父、家業を継いだ長男…仲のいい「5人家族」だった高橋家
昨年末に他界した正さんは、地元で工務店を経営するかたわら、収益用のマンション2部屋を保有する資産家でした。
70歳で仕事を引退してからは年金と家賃収入で悠々自適のセカンドライフを満喫していたものの、83歳のときに認知症を発症。その後は妻・保子さんの献身的な介助のもと、介護保険サービスを利用しながら穏やかに暮らし、85歳で息を引き取りました。
保子さんは酷く落ち込みましたが、そんな保子さんを支えたのが3人の子どもの存在です。
長男の浩一さんは15年前、正さんの会社を継承しました。実家近くに戸建てを購入し、妻と2人の子ども(社会人・大学生)との4人暮らしです。昨年の年収は1,500万円でした。
次男の修二さんは都内の上場企業に勤めるサラリーマンです。通勤に便利な駅近マンションに住み、妻と高校生になるひとり息子と3人で暮らしています。昨年の年収は1,200万円です。
長女の恵美さんは3年前に離婚して実家に戻り、正さんが認知症であることが判明した2年前に介護を理由に仕事を辞めたきり、現在に至るまで無職です。子どもはいません。
そんな高橋家の家族仲は良好。正さんの認知症が判明したあとも、毎年お盆と正月には全員が実家に集まって正さんを囲み、和気あいあいと過ごしていました。
亡き父の書斎から見つかった「2通」の遺言書
正さんの葬儀を無事に済ませ、実家の居間に家族が集合したときのこと。母の保子さんが、2通の封筒を持ってやってきました。
保子「お父さんの書斎を整理していたら、こんなものを見つけたの」
浩一「なに? ちょっと見せて……」
浩一さんは、封筒の表書きを見て驚いた様子です。
浩一「どっちも遺言書って書いてあるぞ。2通あるってどういうこと?」
保子「そうなの。1通は机の引き出し、もう1通は書棚の本のあいだに挟んであったわ」
恵美「……ふ~ん……なんて書いてあるの?」
それぞれの遺言書の内容を要約すると、下記のようになっていました。