定年を数年後に控え、「そろそろ老後資金の確認を」と通帳を手に取った地方のメーカーに勤める会社員の松田さん(57歳)。ところが、そこに記載されていた残高は自身の想定を大きく下回るものでした。家計管理は長年妻に任せきりで、収支の詳細を把握することなく過ごしてきた日々。その「無関心」が老後の生活設計を狂わせてしまうことに……? 今回は松田さん夫婦の事例を元に、夫婦の家計管理における注意点と解決策について、CFP®の伊藤寛子氏が解説します。

堅実にやってきたはずなのに、なんでだよ…年収700万円・57歳の会社員、妻の差し出した通帳に絶句。定年まであと3年、安泰の老後が揺らぐ「まさかの事態」【CFPの助言】
定年前に気づけたのは運がよかった
松田さんにとって貯蓄の少なさはショックだったかもしれませんが、何も知らないまま定年を迎えていたら、もっと深刻な事態になっていたかもしれません。
貯蓄が急務だと感じた松田さん夫婦は、まずは毎月貯められそうな貯金額を決め、生活費口座とは別の口座に貯めていくことにしました。2年後に松田さんが定年退職する際には、退職金として1,500万円程度受け取れる見込みです。
しかし、住宅ローンの返済などがあるため、それを含めても老後資金に足りるのか不安だった松田さんは、FP相談を利用することにしました。相談にあたり、ファイナンシャルプランナーは松田さん夫婦にこういいました。
「定年前に気づけたのはある意味ラッキーです。年金生活に突入するまでの期間で、まだ軌道修正可能です」
退職金・年金・支出などをもとに将来の収支をシミュレーションしたキャッシュフロー表で全体像を見える化したうえで、具体的な家計の見直し策を検討。松田さんはもともと想定していた65歳まで再雇用で働き、妻も漠然と60歳までと思っていたパートを65歳まで続けることにしました。
また、しばらく見直しをしていなかった保険についても、子どもが独立したことで現状に合った保障内容に適正化し、支出を削減しました。
こうした支出の見直しだけでは安心して暮らせる老後資金には不足しているため、資産運用による対策も取り入れることに。毎月の貯金を予定していた分と、支出の見直しにより浮いた分を合わせ、iDeCoとNISAで積立を始めました。
これまで資産運用経験がなかった松田さん夫妻。これから退職金を受け取るタイミングを迎えますが、定年前から資産運用をスタートできたのも、いいタイミングでした。
突然まとまった資金を手にして、知識・経験がないまま投資をすると、失敗するリスクが高まるからです。金融機関で薦められた商品に冷静な判断ができないまま投資をしてしまうというケースは少なくありません。少額からでも資産運用を始めることで、知識と経験を積み重ねていくことができます。