老後の生活設計に不安を感じ、「あと数万円でも収入が増えれば……」と願うのは決して特別なことではありません。しかし、こうした焦る気持ちにつけ込むように、SNS上では魅力的な投資話が溢れています。「高利回り」「簡単」「誰でも儲かる」といった甘い言葉の裏には、大切な老後資金を一瞬で奪い去る悪質な罠が潜んでいるかもしれません。本記事では、Aさんの事例からSNS投資詐欺の手口と投資詐欺の被害を避ける方法について、オフィスツクル代表の内田英子氏が詳しく解説していきます。
老後は妻とゆっくり温泉めぐりでも…“年金月21万円”65歳元会社員夫「あと数万円あればなあ」ささやかな幸せと引き換えに〈耐えがたい苦痛の老後〉を味わうワケ【FPの助言】
試しに少額から始めた投資
Aさんが参加して1週間ほどたったあと、主催者の投資アナリストからメッセージが届きました。「参加いただいたみなさんは全員儲けが出ています。ぜひご参加ください!」投資用アプリをダウンロードするよう促されました。「試しに少額から……」Aさんは投資用アプリをダウンロードし、専用口座を開設。投資を始めることにしました。
Aさんがグループチャットで指示された銀行口座にお金を振込むと、推奨する取引への参加を促されました。グループチャットではほかの参加者からの参加報告が相次いでいました。Aさんも乗り遅れまいと取引を始めると、専用アプリの画面から、早速数万円の利益が出ていることが確認できました。しかも利益は日を追うごとに大きくなります。「これはすごい!」Aさんはその後もすすめられるさまざまな取引に参加し、1ヵ月後には、振込んだ合計金額が約900万円になっていました。それは残った退職金の約6割に該当する額です。
ほとんど毎日サイトを訪問し、約1,000万円を超える利益になってきたころ、Aさんは、換金して出金しようとしました。しかし、手数料として約100万円の追加の支払いを指示されます。Aさんは指示どおり支払いましたが、利益どころか投資したお金も一向に出金されません。おかしいと思ったAさんはようやく警察に相談に行き、詐欺だと気がつきました。
Aさんが振込んだ金額は約1,000万円になっていました。わずか2ヵ月足らずのあいだに1,000万円を失ったのです。「自分は騙されていたのか……」Aさんの頭の中は真っ白に。「どうして私がこんな仕打ちを受けるのか……。残りの老後を資産500万円だけで乗り切るなんて、とても耐えきれない。この先どうすれば……」騙した相手、騙された自分。両者に対し、やるせない気持ちを味わい、途方に暮れるのでした。
急増するSNSを使った投資詐欺
SNSを使った投資詐欺が急増しています。警察庁の資料によると、令和6年度のSNS型投資詐欺の認知件数は1万164件で、前年よりも64%増加しています。なお、被害額も増加しており、前年よりも78%増加の1,268億円でした。1件あたりの被害額が大きいこともSNS型投資詐欺の特徴です。昨年は1件あたり約1,248万円でした。
投資詐欺は、「普通の人」の「将来の暮らしをちょっとでもよくしたい」と願う真面目な心理と現実との狭間にある「情報を見極める力の弱さ」と「不安な心理」につけこみ、集団で大金を奪います。投資詐欺にあう人は欲深い人、といったイメージもありますが、実際に被害に遭われているのは「普通の人」です。
被害者の年齢層を見ると、男女ともに60代以上が約6割を占めています。
シニア層に被害者が多い理由は、相談できる相手が少ないことに加え、「自分でなんとかしよう」という心理があると推測されます。所属するコミュニティがない、あるいは関係性が希薄であるために、自分だけの問題と抱え込みやすいのです。
Aさんも、将来を少しよくしたいとの思いから「あと数万円の収入があれば」と自分でなんとかしようと手を伸ばした結果、大きな投資詐欺の被害にあってしまいました。

