試しに少額から始めた投資

Aさんが参加して1週間ほどたったあと、主催者の投資アナリストからメッセージが届きました。「参加いただいたみなさんは全員儲けが出ています。ぜひご参加ください!」投資用アプリをダウンロードするよう促されました。「試しに少額から……」Aさんは投資用アプリをダウンロードし、専用口座を開設。投資を始めることにしました。

Aさんがグループチャットで指示された銀行口座にお金を振込むと、推奨する取引への参加を促されました。グループチャットではほかの参加者からの参加報告が相次いでいました。Aさんも乗り遅れまいと取引を始めると、専用アプリの画面から、早速数万円の利益が出ていることが確認できました。しかも利益は日を追うごとに大きくなります。「これはすごい!」Aさんはその後もすすめられるさまざまな取引に参加し、1ヵ月後には、振込んだ合計金額が約900万円になっていました。それは残った退職金の約6割に該当する額です。

ほとんど毎日サイトを訪問し、約1,000万円を超える利益になってきたころ、Aさんは、換金して出金しようとしました。しかし、手数料として約100万円の追加の支払いを指示されます。Aさんは指示どおり支払いましたが、利益どころか投資したお金も一向に出金されません。おかしいと思ったAさんはようやく警察に相談に行き、詐欺だと気がつきました。

Aさんが振込んだ金額は約1,000万円になっていました。わずか2ヵ月足らずのあいだに1,000万円を失ったのです。「自分は騙されていたのか……」Aさんの頭の中は真っ白に。「どうして私がこんな仕打ちを受けるのか……。残りの老後を資産500万円だけで乗り切るなんて、とても耐えきれない。この先どうすれば……」騙した相手、騙された自分。両者に対し、やるせない気持ちを味わい、途方に暮れるのでした。

急増するSNSを使った投資詐欺

SNSを使った投資詐欺が急増しています。警察庁の資料によると、令和6年度のSNS型投資詐欺の認知件数は1万164件で、前年よりも64%増加しています。なお、被害額も増加しており、前年よりも78%増加の1,268億円でした。1件あたりの被害額が大きいこともSNS型投資詐欺の特徴です。昨年は1件あたり約1,248万円でした。

出所:警察庁資料※
[図表1]認知件数・被害額 出所:警察庁資料

投資詐欺は、「普通の人」の「将来の暮らしをちょっとでもよくしたい」と願う真面目な心理と現実との狭間にある「情報を見極める力の弱さ」と「不安な心理」につけこみ、集団で大金を奪います。投資詐欺にあう人は欲深い人、といったイメージもありますが、実際に被害に遭われているのは「普通の人」です。

被害者の年齢層を見ると、男女ともに60代以上が約6割を占めています。

出所:警察庁資料※
[図表2]被害者の年齢層 出所:警察庁資料

シニア層に被害者が多い理由は、相談できる相手が少ないことに加え、「自分でなんとかしよう」という心理があると推測されます。所属するコミュニティがない、あるいは関係性が希薄であるために、自分だけの問題と抱え込みやすいのです。

Aさんも、将来を少しよくしたいとの思いから「あと数万円の収入があれば」と自分でなんとかしようと手を伸ばした結果、大きな投資詐欺の被害にあってしまいました。