老後の生活設計に不安を感じ、「あと数万円でも収入が増えれば……」と願うのは決して特別なことではありません。しかし、こうした焦る気持ちにつけ込むように、SNS上では魅力的な投資話が溢れています。「高利回り」「簡単」「誰でも儲かる」といった甘い言葉の裏には、大切な老後資金を一瞬で奪い去る悪質な罠が潜んでいるかもしれません。本記事では、Aさんの事例からSNS投資詐欺の手口と投資詐欺の被害を避ける方法について、オフィスツクル代表の内田英子氏が詳しく解説していきます。
老後は妻とゆっくり温泉めぐりでも…“年金月21万円”65歳元会社員夫「あと数万円あればなあ」ささやかな幸せと引き換えに〈耐えがたい苦痛の老後〉を味わうワケ【FPの助言】
老後の途中でお金が足りなくなったらどうしよう…
Aさんは65歳の誕生日を迎えたあと、長年勤め上げた大手企業を退職。子どもが2人いましたが、どちらも別居しており、同い年の妻とささやかながら2人で幸せに暮らしていました。
面倒見のよい性格から、後輩たちにも慕われていたAさん。しかし、決して余裕があるとはいえなかった現役生活のなかで、自分の時間を犠牲にしてきたとも感じていました。「これからはゆっくり温泉めぐりでもしよう」約2,000万円の退職金を手に、第二の人生をスタートさせました。
Aさん夫婦の公的年金は手取りで月約21万円。月数万円の取り崩しで夫婦2人の生活費は賄えそうでしたが、先行きには不安も。途中でお金が足りなくなったらどうしよう……。Aさんは定年退職後、住宅ローンを一括繰上返済したこともあり、手元に残っていた資産は1,500万円になっていました。
「公的年金だけじゃ足りない。あと数万円の収入があれば……」
世間では新NISAなど投資熱が高まっていました。Aさんもみんなやっているみたいだし、いい投資先はないだろうかと、投資経験がなかったため、まずはSNSで情報収集を始めることにしました。
ある日、Aさんが動画配信サイトで新NISAに関する動画をみていると、概要欄にURLが貼られていることに気づきます。URLと一緒に「超優良株の情報やアドバイスを無料で提供します! 無料配信登録はこちら」と記載されていました。興味をもったAさんがURLをクリックすると別のSNSのグループチャットへの参加登録を促されました。
SNSはAさんがふだんからよく使っていたSNSでした。促されるままにグループに参加。グループ内ではさまざまなやりとりがメンバー間で行われていました。
投資に関する情報交換や結果報告だけではなく、なかには日常生活や趣味の話題もありましたが、特にAさんの関心を引いたのはある参加者の喜びの声です。グループチャットで推奨された取引を行ったところ、配当が月10万円もらえるようになったといいます。「月10万円もらえればなんの心配もなくなるな」チャンスを見逃さないようにしようと、Aさんは以降たびたびグループチャットをのぞくように……。