昨今、初任給が30万円超えという驚きのニュースが聞こえてくる一方、1993年から2005年ごろまでに就職活動を経験した「氷河期世代」の多くは、社会からの冷遇に苦しんでいます。ただし当然ですが、氷河期世代のなかにも“順風満帆の人生”を送っている人はいるようで……ルポライター増田明利氏の著書『今日、50歳になった 悩み多き13人の中年たち、人生について本音を語る』(彩図社)より、50代の“生の声”を紹介します。
早稲田大学に“補欠合格”→〈就職氷河期〉直撃も内定獲得→スピード出世で部長昇格だが…「自分は小市民」と自嘲する年収750万円・52歳サラリーマン“順風満帆な人生”の理由【ルポ】
他社員の退職続きでスピード出世に、ITバブルで“勝ち逃げ”も
入社後の会社生活もつきがあった。
「4、5年上の先輩社員が何人も辞めていくんです。何か不祥事を起こしたとかリストラではなく自発的な退職なんですが」
辞めていった人たちに特に親しかった人はいなかったが、断片的に聞いた話では仕事が向いていない。配属の希望が通らなかったなど。
「バブル真っ只中に入社した人たちでしょ。不景気になってボーナスが減った。昇給額が少ない。社員旅行がしょぼい。こんなことを言ってた人もいたな」
バブルの頃は半期のボーナスが3か月分+利益分配で3年目の若手でも70万円以上あったそうだが、不景気になったらほぼ半減。昇給も好景気のときの半分程度でベースアップはなし。沖縄、北海道、グアムへの社員旅行も中止。経費削減のためオフィスが新宿副都心の高層ビルから賃料の安い地区へ移転したのが気に入らない……。こんな理由で簡単に辞めていったらしい。
「わたしは95年の入社なんですが翌々年の97年から採用数が大幅に減りまして。毎年10~12人入っていたのが5人ぐらいに絞られた。上も下も人が少ないのは自分にとって都合がよかった」
上がつかえていないから社内資格の昇格も標準より1、2年早かった。下も人数が少ないので自分を脅かす者もいない。好都合だった。
「社会人として80年代後半のバブルは体験していないけどITバブルはちょっとだけすっている。ほんの少しだけど儲けられたのもラッキーだった」
ITバブルと言われていたのは99年の年初から00年末頃までだが、大学のゼミ仲間が投資顧問会社で働いており、その人からいろいろと情報を貰っていたそうだ。
「そいつが言うには、会社としてこの株を強く推奨しているとか、株価の目標を設定しているということでした。特定の顧客を儲けさせるためなんでしょうが」
友人に耳打ちされて富士通、ソニー、東芝などの大手電機メーカーからソフトバンクG、サイバーエージェント、KDDI、ソフマップ、光通信などの株を買い、2割ぐらい上がったら売るというやり方で利益を得ていた。
「USEN、NTTドコモなどは大化けしました。ほぼ倍になりましたからね。元金は400万円ぐらいだったのですが、1年半弱の期間で700万円ほどに増えた。今だったらインサイダー取引で捕まっちゃうだろうけど」
十分儲けたからもういいと手を引いたのが00年の夏が終わる頃。その数か月後にITバブルは弾けたので勝ち逃げだった。