物価高騰が続くなか、24年春闘の賃上げ率は5.10%と33年ぶりの高水準。2年連続で大幅賃上げを実現しました。一方で、家計への恩恵は限定的です。物価高に賃上げが追いつかず、実質賃金はマイナス状態が続いています。日本の物価と賃金の現状、その背景と要因、25年の賃上げの見通しについて、法政大学教授で日本総合研究所客員主任研究員の山田久氏(以下敬称略)にお話しを伺いました。
賃上げ率は33年ぶり高水準も、物価高にあえぐ日本人…「会社員の給与」は増えるのか?【法政大学教授が解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

給与所得は30年間ほぼ横ばい…会社員の苦悩

(※画像はイメージです/PIXTA
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――会社員の年間給与所得は過去約30年間ほぼ横ばいでした。その理由、背景を教えてください。

山田「日本の賃金が下がり始めたのは、1997年頃からです。バブル崩壊後の97年に、三洋証券、北海道拓殖銀行、山一証券が相次いで経営破綻し、その後も日本長期信用銀行、日本債券信用銀行などが破綻しました。97年は、タイの自国通貨暴落をきっかけとする通貨危機がアジア全体に波及した年であり、また、同年には日本の消費税が3%から5%に引き上げられました。

 

こうしたさまざまな要因が複合的に絡まり、日本は長期の景気低迷に陥りました。当然、失業率も上昇。労働需給が悪化し、賃金を上げるどころの状況ではありませんでした。

 

さらにその後、中国が世界の工場として台頭し、日本をはじめ先進各国は中国やアジア諸国に生産拠点をどんどん移転、安い労働力を使って低コストなモノづくりを進めました。その結果、世界中でモノの価格が下がり、特に日本では物価が著しく下落しました。

 

物価が下がると企業の業績は伸びず、賃金も上がりません。給料が増えないので、消費者は安いものしか買わなくなります。そうなると、企業業績も上向かず、賃金も上がらない。会社員の年間給与所得が過去約30年間ほぼ横ばいだった大きな背景は、悪循環が30年間続いてきたことです」