老後の生活を安心して送れるよう、現役時代から資産を増やしておくことは大切です。しかし、資産を増やすこと自体が目的になってしまう人も少なくありません。今回は、都内で年金生活を送る田中さん(仮名・75歳)の事例と共に、お金との向き合い方について小川洋平FPが詳しく解説します。

私、お金が使えないんです…資産1億円・年金月23万円・住宅ローン完済で“あり余る資産”を持つ75歳男性。老後不安とは無縁に見えるが「周囲に理解されない深刻な悩み」に苛まれるワケ【CFPの助言】
不安を取り除く方法① 家計の見える化
不安を取り除くためにまず行ってもらいたいのは、家計の見える化です。
お金を使い過ぎてしまう人の特徴として、現在の家計の収支を把握できていないことが挙げられますが、田中さんに関しては、この点はほぼ完璧に把握しています。
しかし、今後何歳のときにどのようなお金が必要になるかなどが不明であり、今後自分たちがどのような生活を望んでいるかが、解像度が低いままであったことが問題と言えます。
先々にいくらお金を使えるかがわかれば、どの程度お金を残す必要があるかがわかります。また、そこから逆算して今いくらお金を使ってもよいかがわかります。
それがわかれば、家計管理は継続しつつも、問題ない範囲で支出を増やすこともできます。使ってもよい金額を把握してコントロールし、自分たちの幸せや目標のために使うのが本当の「家計管理」です。
不安を取り除く方法② 自分の望む人生を送るための戦略を考える
もう1つが、自分が望む人生を具体的に思い描くことです。お金を使い過ぎてしまう人も、使うことに恐怖を感じてしまう人も、どちらにも共通しているのが、「望む人生の解像度が低い」ということです。
自分が望む人生を具体的にイメージすることで、何をしたらそのような人生を実現するかを考えることができます。そのための戦略が「ライフプランニング」です。
さらに、いつ、何のお金を準備しておけばよいのかがわかれば、それに合った金融商品を選び、資産が減るスピードを抑えることができます。
たとえば、まだ元気でいられそうな時期はNISAなどの金融商品を取り崩しながら生活し、判断力が衰えてきそうな年齢になれば家族が管理しやすい生命保険を活用して運用したり、認知症や介護が必要な状態になったときには介護保険としてお金を準備したりしておくなどです。
このように「使うための計画」を立てて目標設定をすれば、そのために家計をコントロールすることができるようになります。
「貯めたお金を使わずに終わる」人生にしないために
今回は、お金を使うことに罪悪感を感じてしまっていた田中さんの事例をお伝えしました。
お金を使い過ぎてしまうことは問題ですが、本当はもっとやりたかったことがあったのに、使わないまま人生を終えてしまうのも問題です。
お金はやりたいことを実現するため、目標を実現するための道具です。「目的と手段をはき違えるな」という言葉を聞いたことがある方も多いでしょう。お金は目的を達成するための手段であって、それ自体が目的ではありません。
自分が望む人生は何か、そのためにいくら必要なのか、最大限それを実現するためにはどのように資金を管理し、運用していけばよいのか。自分の人生や価値観と向き合い、お金の使い方を考えていきましょう。
小川 洋平
FP相談ねっと