1968年、三田に誕生した『ラーメン二郎』は、半世紀以上にわたり多くの熱狂的な支持を集めてきました。「二郎はラーメンにあらず、二郎という食べ物なり」——この格言が示すように、『ラーメン二郎』は単なるラーメン店を超えた、熱狂的なファンを持つ唯一無二の存在です。超濃厚な豚骨スープ、極太麺、そして山盛りのもやしという強烈な個性を放つ一杯は、多くの人々を虜にし、“ジロリアン”という熱狂的なファン層を生み出しました。 一杯のラーメンが、なぜこれほどまでに人々を惹きつけ、経済現象ともいえるほどの熱狂を生み出すのでしょうか? 東山広樹氏の著書『国民的チェーンめし研究 〇〇の△△はなぜうまいのか?』(カンゼン)より、『ラーメン二郎』の秘密を、科学的な視点と情熱的な分析で紐解いていきます。
なぜ我々は〈ラーメン二郎〉に脳が歓喜するのか?「週3~5杯食べ続けた人」の衝撃のいま
『ラーメン二郎』の“スープ”はなぜうまいのか?
まず、『二郎』のスープの作り方だが、実はいたってシンプル。
1.継ぎ足してきたスープに豚のゲンコツと、背骨、背脂、ニンニクを6時間程度煮込み、途中で「ブタ」用の肉を加えて90分~2時間煮込む
2.醤油とみりん風調味料を混ぜたタレに一の「ブタ」を漬け込む
3.2のタレにうま味調味料とスープを加える
とにかくシンプル。こんなシンプルなのになぜ美味しいのか?
スープの味は“潔さ”で決まる
ラーメンのスープ作りを研究してきた者にとって、前記のシンプルかつ、本質をガッチリ突いた作り方で素晴らしいと惚れ惚れしてしまう。シンプルながらにスープに使われる素材一つひとつが実に合理的に作用し合っている。
そして、それぞれの素材の特徴と役割としては、
●豚ゲンコツ(豚の大腿骨)
→豚ゲンコツに含まれる骨髄を溶かし出すことによって、“まろやかなうま味の抽出”“ゼラチン質の抽出”が行われる。
●豚背骨
→原価が安く、うま味が早く出る。“シャープなうま味の抽出”が行われる。
●豚背脂
→スープに入れることによって“油脂分の抽出”“ゼラチンの抽出”が行われる。
●豚肉
→スープに入れることで“肉由来のうま味を抽出”し、豚自体は、「ブタ」として、具にする。
●ニンニク
→スープに入れて“豚の臭み消し”を行なう。
となり、ここから『ラーメン二郎』のスープにおける方程式が導き出される。
この無駄が削ぎ落とされた潔さが、『二郎』の実直・剛直なスープの味の秘訣といえよう。
「乳化」が引き出すスープのうま味
乳化とは簡単に説明すると「油と水を混ぜ合わせる」ということ。
油というのは水には溶けない性質があり、水に油を入れたら二層になって、ぐるぐる混ぜると油が小さな球になるのだけれど、そのうちまた二層に分かれてしまう、という風に決して自然には溶け合わないもの。
しかし、水分中で小さくなった油の球をできるだけ長く小さな球のままとどめておくことが“乳化”。
マヨネーズは、乳化の代表例で、酢とすごく小さくなった油の球が混ざり合ってクリーム状になったもの。そして、水と油を乳化させるためには「乳化剤」が必要であり、乳化剤には水と油の球をくっつける作用がある。マヨネーズは、酢(水)と油を、卵が乳化剤となってくっつけているという仕組みなのだ。
さて、『二郎』における場合の“乳化”とは?
この式の、“うま味が溶けた水”と“油脂”を“ゼラチン”が乳化剤となって、くっつけている。
スープを乳化させることにより「コク」が生まれ、またスープにも「トロミ」がつき、あの超極太麺にうまく絡むようになる。乳化は実に偉大!