年金収入だけではゆとりのある生活が難しいいま、老後への備えは必須です。ただ、定年直前に焦って準備を始めると、取り返しのつかない事態に陥ってしまうことも……。貯金と退職金で「老後は安泰」だと信じていたサラリーマンの事例をみていきましょう。神戸・辻本FP合同会社代表の辻本剛士氏が解説します。※プライバシー保護のため、登場人物の情報は一部変更しています。

(※写真はイメージです/PIXTA)
悔しい…〈年収750万円・貯金2,000万円〉定年直前の59歳サラリーマン、同僚の“余計なお世話”が招いた大惨事。たった半年で貯金の半分を失ったトホホな理由【FPが警告】
同僚の勧めで始めた“老後資金づくり”
翌日、陽介さんは再びAさんに相談してみました。
陽介さん「昨日はありがとな。ところで、Aは老後のためになにをやっているんだ?」
すると、Aさんは得意げな表情で言いました。
Aさん「実はな、俺は先物取引でかなり儲けているんだよ」
陽介さん「先物取引?」
聞き慣れない言葉に、陽介さんは首をかしげます。
陽介さん「それって本当に大丈夫なやつなのか? 同じ資産運用なら、NISAとか投資信託のほうが安全なんじゃないの?」
Aさん「なんだ、ビビってんのか(笑)わかった。特別に全部教えてやる」
Aさんの説明を受け、陽介さんは先物取引について最低限の知識を得ました。
しかし、陽介さんは慎重な姿勢を崩しません。それもそのはず、過去に知り合いから勧められたことをきっかけに株式投資を始めたものの、数十万円の損失を出してしまった苦い経験があるからです。
そのため、投資に対しては警戒心が強く、積極的に取り組む気にはなれませんでした。
陽介さん「なるほど、先物取引は買いからでも売りからでも入れるのか。でもこれ、結局は投資だろ? リスクもあるだろうし……」
こう尋ねると、Aさんはそんな陽介さんの態度を笑い飛ばしました。
Aさん「心配するな。とにかくこれからは景気がどんどんよくなるから、買いで入ればいいんだよ。……ほら、俺はいま500万円の利益が出てる」
Aさんが差し出したスマートフォンの画面を覗くと、たしかに約500万円の利益が出ています。
陽介さん「うわ、ほんとだ、500万円……」
慎重派の陽介さんも、思わず声が漏れます。
(長年付き合いのあるAさんがここまで自信満々に勧めてくるのだから、少しくらい試してみてもいいかもしれない)
過去の失敗もあり、まだ完全に信用する気にはなれませんでしたが、だんだんとこうした気持ちが湧き上がってきました。考えた末、陽介さんは、Aさんの話に乗ることにしました。ただし、このことは妻には内緒です。