残される家族が困らないようにと、万一を想定して準備をする終活。始めるきっかけは人それぞれですが、そこには子を思う親の優しさがあふれています。ただその想いに気づくことができるかは別問題のようです。
〈時給1,250円〉週2で自由気ままに働く55歳ひとり息子、〈年金月13万円〉79歳母の遺産を頼りにしていたが…母の終活プランに思わず絶叫「どう生きていけというんだ!」 ※写真はイメージです/PIXTA

息子をダメ人間にしてしまった…後悔の念を抱く母の決断

哲也さんは大学卒業後、就職。スタートは順調だったといいます。しかし人間関係に悩み、そのまま退職。以来、働くことからは距離を置くようになったといいます。

 

――はじめのうちは会社で相当嫌なことがあったのだろうと、夫と「しばらく、そっとしておこう」と話をしていました。そうしたら、30年も経っていました……

 

【親と同居する未婚の子】

「50~54歳」…86万9,216人、36万4,235人、8万1,793人、42万3,019人

「55~59歳」…50万7,846人、13万8,363人、5万1,197人、31万8,242人

「60歳以上」…36万1,989人、4万0,920人、3万2,702人、28万8,350人

出所:総務省『令和2年 国勢調査』

※数値左より、未婚の子総数、未婚の両親と同居、男親のみと同居、女親のみと同居

 

なぜ哲也さんはきちんと働こうとしないのか。ひとつは会社を辞めたタイミング。世はいわゆる就職氷河期で、中途採用も厳しい環境下にありました。なかなか再就職先が見つからなかったというのもひとつの要因かもしれません。一方で、同年代の友人に「親の遺産があるから大丈夫」といっているのを耳にしたことがあります。確かに新築同様にリフォームした家があり、哲也さんの老後の面倒をみてあげられるくらいの貯蓄もある……「結局、息子をダメな人間にしたのは私たちなんですよ」と後悔を口にする京子さん。だからこそ、終活は完璧にしておきたかったという思いがありました。

 

急ピッチで進めた終活も、すべてを哲也さんに伝えるという最終段階。そこで京子さんは衝撃的なことを告げます。

 

――不用品はすべて処分したわ。あとはこの家だけ。売って老人ホームに入居することにしたわ

 

思いもしなかった母の言葉に言葉を失くす哲也さん。しばらく経つと状況が読み込めたのか「この家がなくなったら、どうやって生きていけばいいんだよ!」と絶叫。あまりの声の大きさに近所迷惑を心配したといいます。

 

――働いてどうにかなさい、まだ若いんだから。初めてのひとり暮らし、楽しんで

 

京子さんが最終的に決めてのは、親に依存していた息子と無理やりにでも離れること。

 

――ひとりでも生きていけるところをみないと、私も安心してあの世に行けないもの

 

京子さん、老人ホーム入居の手続きと、自宅売却の手続きを同時並行で進めています。

 

[参考資料]

国立社会保障・人口問題研究所『2022年生活と支え合いに関する調査』

総務省『令和2年 国勢調査』