FPが夫婦に行った「意外な提案」

これからの暮らしについて心配になった本山さん夫婦はその後、知り合いの紹介でFPに相談することになりました。

相談の場で、大介さんはこれまでの経緯を詳しく説明しました。母の介護のこと、美奈子さんの姉の介護のこと、そして減り続ける資産のこと……。

話を聞いたFPは、冷静に現状を分析したうえでいくつかの提案をしてくれました。

「たしかに、このままのペースで資産を取り崩していくと、枯渇する可能性はゼロではありません。しかし、あと10年程度で住宅ローンが完済となります。以降は支出が一気に減るため、資産の減少も緩やかになるでしょう」

さらに、FPは本山さんの自宅についても言及しました。

「本山さんの自宅は駅から徒歩圏内で立地的には申し分ありません。万が一資金が底をつきそうになった場合は、売却してまとまった資金を確保することもできます」

売却の選択肢を聞き、大介さんは少し驚いた表情を見せました。

「家を売る、ですか」

「はい。もちろん、急いで決める必要はありません。ただ、将来的に選択肢のひとつとして考えておくことは大切です。また『リバースモーゲージ』を活用する方法もあります。これは、自宅を担保にしてお金を借り、住み続けながら資金を確保する仕組みです」

「なるほど、そんな方法もあるんですね」

リバースモーゲージを利用すれば、いまの住まいを手放さずに生活資金を確保することも可能です。資産が減ることに対する不安が強かった大介さんにとって、この提案は少し気持ちを楽にするものでした。

「いまの状況を考えると、このタイミングで無駄な固定費を減らすことが大切です。通信費や保険料、サブスクリプションサービスなど、見直せる支出がいくつかあります。少しでも支出を抑えれば、資産の目減りを遅らせることができますよ」

家計改善策の提案のあと、FPは資金の問題だけでなく、今後の介護負担についてもアドバイスをくれました。

「今後もケアマネージャーと連携を取りながら、少しでも介護負担を軽減できるような体制を整えていきましょう。2人だけで抱え込むのではなく、利用できる介護サービスは積極的に活用してください」

辻本 剛士
神戸・辻本FP合同会社
代表