母が逝去→悲しくも“ほっとした”本山さん夫婦。しかし…

そんななか、母は静かに息を引き取りました。大介さんは悲しみに暮れながらも、葬儀の手続きを進めます。葬儀費用には約200万円がかかり、その他の手続きにも少なからぬ費用が発生しました。

すべてが落ち着いたころには、大介さんの資産は2,200万円にまで目減り。68歳となった大介さんは、改めて通帳を見つめました。

「3年間で800万円も減ったのか……」

そして、美奈子さんとこれからの生活について改めて話し合いました。資産は減ったものの、まだ2,200万円は残っています。

「出費に気をつけながら、慎ましく穏やかに暮らそう」

本山さん夫婦はそう誓いました。

介護に追われていた日々が終わり、夫婦は再び穏やかな日々を取り戻した……はずでした。しかし、このあと、2人の生活にはさらなる試練が待ち受けていたのです。

悪夢、再び…

母の介護を終え、ようやく落ち着いた矢先のこと。ある日、美奈子さんのもとに、病院から連絡がありました。

「お姉さんが倒れました。すぐに病院へ来てください」

美奈子さんの姉は、5歳年上の70歳。結婚せずに1人で暮らしていましたが、脳卒中を発症し、緊急搬送されたのです。

病院に駆けつけた美奈子さんは、医師から説明を受けました。

「命は助かりましたが、後遺症がある可能性が高いです。ご家族のサポートのもと、リハビリが必要になります」

美奈子さんの姉には配偶者も子どももおらず、面倒を見られるのは美奈子さんだけです。

「姉を支えたい」という気持ちはあるものの、大介さんの母の介護が終わったばかりで、正直なところ、夫婦ともに疲れ切っていました。

それでも、介護は待ってはくれません。

今回もまた、医療費やリハビリ費用、介護ベッドのレンタルといったあらゆる出費に加え、住宅の改修費が発生することがわかりました。姉の自宅をバリアフリーにするために手すりを設置したり、介護しやすい環境を整えたりする必要があったのです。

もちろん、介護保険の補助はあるものの、負担額は決して少なくありません。これまでの経験から、大介さんはすぐに理解しました。

「今回も毎月10万円以上の赤字は覚悟しないとな……」

大介さんの母の介護によって、現在の貯蓄は約2,200万円。いまのペースで出費が続けば、10年後には1,000万円を切るかもしれません。これまでのように「なんとかなる」と楽観することは、さすがにできませんでした。

「このままでは、私たちの老後の生活が成り立たなくなる……姉さんの介護は必要だけど、共倒れになってしまうかもしれない」

大介さんも美奈子さんも、資産が減り続けることに強い不安を覚えます。資産がゼロになる未来を想像し、2人は言葉を失いました。そして、長い沈黙のあと、美奈子さんがふとつぶやきました。

「愛だけではどうにもならないんですね」

現実の厳しさを前に、大介さんは静かに頷きました。