どんなに潤沢な老後資金を蓄えていても、何が起こるかわからないのが人生。65歳の本山さん夫婦の事例をもとに、老後起こりうる“思わぬリスク”と、最悪の事態を回避するための対策をみていきましょう。神戸・辻本FP合同会社代表の辻本剛士氏が解説します。
愛だけではどうにもならないんですね…〈年金月23万円・貯金3,000万円〉子のいない65歳“晩婚カップル”が「老後破産」に怯えるワケ【CFPの助言】
穏やかな日々に終わりを告げた“1本の電話”
ある日のこと、大介さんのスマートフォンが鳴りました。出てみると、相手は病院の職員でした。
「本山大介さんでいらっしゃいますか? お母さまの件でご連絡しました」
母の名前を聞いた瞬間、大介さんの胸がざわつきます。
今年88歳になる母は、数年前に父を亡くしてから1人暮らしをしていました。足腰が弱くなってきたとはいえ、特に大きな病気もなく、定期的に電話をする限りでは元気そうだったはずですが……。
「お母さまが自宅で転倒し、腕を骨折されました。現在、病院で治療を受けています」
大介さんが急いで病院に駆けつけると、ベッドに横たわっている母は、思ったよりも元気そうでした。医師の話では、骨折自体は3ヵ月ほどで完治する見込みとのこと。ひとまず安心したものの、医師の次の言葉が大介さんの不安を増幅させました。
「お母さまには、認知症の傾向がみられます。少し前から物忘れが目立っていたという様子はありませんでしたか?」
たしかに、最近母の言動に違和感を持つ場面は少なくありませんでした。同じ話を何度も繰り返したり、数日前の出来事をすっかり忘れていたりすることがあったのです。
「今後は骨折の治療だけでなく、認知機能の低下にも注意が必要です。いまの段階から介護について考えたほうがいいかもしれませんね」
退院後、大介さんの母は1人で生活するのが難しくなりました。自宅での生活を続けるにしても、誰かがそばで見守る必要があります。しかし、大介さん夫婦も自分たちの生活があるため、毎日母の世話をすることは困難です。
そこで、夫婦は相談のうえ、介護サービスを利用することにしました。
母の介護が始まり、生活が一変
母の介護が始まってからというもの、大介さんの生活は一変します。仕事を引退して夫婦でのんびり暮らすはずが、生活は実家への往復や介護サービスの手配、母の介助などに忙殺されていきました。
また、家計の負担も確実に大きくなっていきます。
母のグループホームの費用や医療費、実家への交通費、その他の生活費……介護保険の補助があったとはいえ、毎月10万円以上の赤字が続きました。
65歳時点で3,000万円あった貯金は、たった3年で500万円が消え、68歳の時点で2,500万円にまで減少。
「母のためだから」とこれまであまり気にしていなかったものの、残高を確認するたびに少しずつ不安が募ります。