年金の繰下げ受給により、より豊かな老後を目指すご夫婦もいるでしょう。しかし、配偶者との死別後も繰下げを続けることで、思わぬ不利益を被るケースがあることをご存じでしょうか。この問題については、厚生労働省でも制度見直しの検討が始まっています。今回は、妻の死後も70歳まで年金受給を先延ばしにした佐藤さんの事例とともに、遺族年金受給権による繰下げ制度の「落とし穴」について、CFPの松田聡子氏が解説します。
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年金繰下げで〈月19万円〉が〈月27万円〉に増えると思っていたのに…病に倒れた妻を看取った70歳元会社員、年金事務所が告げた想定外の事実に愕然「5年も待ったのに、たったこれだけ?」【CFPの助言】
今後の制度見直しと対応策
現行の制度では66歳以降に遺族年金の受給権が発生すると、引き続き繰下げ増額を希望する場合でも、その時点で繰下げ増額率が固定されてしまいます。高齢者の就労が進展し、遺族の生活設計の選択肢を広げる必要性も高まっている現在、解決すべき課題といえるでしょう。
2024年12月に厚生労働省の年金部会で示された制度見直し案 は、この課題に正面から取り組むものです。具体的には、遺族厚生年金の受給権者でも、一定の条件を満たせば老齢年金の繰下げ申出が可能となる方向で検討されています。この見直し案をもとに制度が改正されると、佐藤さんのようなケースは救済される可能性が高いでしょう。
今回のケースで佐藤さんは金銭的に大損をしたり、年金が予定どおり増額できなかったせいで生活に困ったりするほどではありません。
しかし、遺族年金の受給権があると繰下げ増額が停止されることを知っていたら、美智子さんが亡くなった時点でライフプランを変更できたはずです。たとえば、年金受給を開始し、就労形態を見直す可能性もあったでしょう。
佐藤さんは美智子さんを亡くした後も、より多くの年金を受け取れると信じて繰下げを続けてきました。しかし、遺族年金の受給権が発生した瞬間に、その希望は大きく崩れ去ったのです。
年金は老後の生活を支える大切な柱ですが、その仕組みは想像以上に複雑でわかりにくいものです。だからこそ、自分の年金に関心を持ち、こまめに情報を収集し、必要に応じて専門家にアドバイスを求めることが大切なのです。まずはねんきん定期便を確認し、自分の状況を正確に理解することから始めてはいかがでしょうか。
松田聡子 CFP®