年金の繰下げ受給により、より豊かな老後を目指すご夫婦もいるでしょう。しかし、配偶者との死別後も繰下げを続けることで、思わぬ不利益を被るケースがあることをご存じでしょうか。この問題については、厚生労働省でも制度見直しの検討が始まっています。今回は、妻の死後も70歳まで年金受給を先延ばしにした佐藤さんの事例とともに、遺族年金受給権による繰下げ制度の「落とし穴」について、CFPの松田聡子氏が解説します。
年金繰下げで〈月19万円〉が〈月27万円〉に増えると思っていたのに…病に倒れた妻を看取った70歳元会社員、年金事務所が告げた想定外の事実に愕然「5年も待ったのに、たったこれだけ?」【CFPの助言】
繰下げで「月27万円」のはずが...70歳で知った衝撃の事実
「これからの老後は年金で安心して暮らせると思っていたのに...」。大手電機メーカーで35年勤務し、現在は技術顧問として月数回の指導を続ける佐藤正男さん(仮名・1954年4月生まれ)は、年金事務所の窓口で思わず言葉を失いました。
佐藤さん夫婦は、老後の生活設計を慎重に考えてきました。同い年の妻・美智子さん(1954年2月生まれ)は65歳から月額9万円の年金を受給開始。一方、佐藤さんは、受給開始を70歳まで繰下げることで、月額19万円の年金を約42%増額し、約27万円にできると考えていました。妻の分と合わせれば月36万円。完全にリタイアしても、ゆとりある老後を送れると計算していました。
しかし、美智子さんが2020年4月、突然の病により他界。美智子さんは66歳2ヵ月、佐藤さんは66歳になったばかりでした。それでも佐藤さんは「繰下げを続ければ、月27万円の年金が受け取れるはず」と考えて繰下げ待機を続けました。
2024年4月、70歳を迎え、いよいよ年金の請求手続きに訪れた年金事務所で、思いもよらない事実を知ることになります。
「妻が亡くなった2020年4月時点で、あなたには遺族年金の受給権が発生しています。そのため、繰下げ増額率は66歳になったばかりの時点、つまり12ヵ月分の8.4%で固定されています」
担当者の説明に、佐藤さんは言葉を失いました。実際の年金月額は約20.6万円。期待していた27万円より6万円以上も少ない計算でした。
「遺族年金の話は聞いていましたが、受給しなければ問題ないと思っていました。繰下げがストップするなんて、誰も教えてくれなかった...」
佐藤さんの声には悔しさが滲みます。この4年間、より多くの年金を受け取れると信じて疑わなかっただけに、その衝撃は大きいものでした。