
5歳児健診後の諸課題
1.乳幼児健診後のフォローアップ体制
このたびの5歳児健診の新設により、切れ目のない支援体制が期待されているが、地域行政の発達支援の体制にはいくつかの課題が存在していると筆者は考えている。
一般的な地域行政の発達のスクリーニングは、法定健診である1歳6ヵ月児健診や3歳児健診、そして今回新設された5歳児健診が重要な機会となるが、乳幼児健診で発達状況の再評価や専門機関の診断へつなげる(紹介)必要となる場合は、健診に併設された心理検査の枠から漏れたり、別日に設定された心理相談の枠も継続フォローの予約が先行するため数ヵ月先になることがある。
上述したとおり、5歳児の大半は既にいずれかの集団組織に所属し、親はそれを前提にスケジュールを組み立てているため、わざわざ休暇を取得して改めて来訪することは容易ではない。さらに、現時点で地域行政が設置している発達フォロー教室なども平日の日中に実施していることが多い。(一部で土日の開催を実施している自治体も存在する)行政側が段階的な発達支援教室の整備をしていても、5歳児健診にてフォローが必要と判断された親子が参加するにはスケジュールが合わない可能性が非常に高いことが懸念される。
2.児童精神科の初診までの期間と療育
専門家の発達フォローや行政の発達支援教室につながったとしても、就学に向けて児童精神科への受診や、療育機関への所属にも高いハードルが待ち受けている。一般的に、行政のスクリーニングから児童精神科へ予約し、初診に至るまで数ヵ月~1年ほど要すると言われている※10。
これは、自閉症スペクトラムに関する認知度が上昇したことや、不登校・自殺企図など子どもが抱える精神疾患が多様化したことでニーズが格段に上昇したことが理由とされている。また、児童精神科は、診療時間も通院期間も他の診療科と比較して非常に長いことが知られている。診断結果を導くだけでも複数の検査を経る必要があり、1つの検査だけで1時間ほど要するものもあり、再検査を実施することもある。
また、療育を担う施設は、2012年には2,106か所であったのが、2020年には7,722か所へ増加しているが、利用者数自体も2012年の47,074人から2020年の118,850人へと増加していることが報告されている※11。5歳児健診新設による切れ目のない支援を実施するには、スムーズな受診体制の確立や、専門機関における診療枠や療育施設などの受け皿の確保も重要な視点となる。
※10 神奈川県立こども医療センター,児童思春期精神科「当科外来の現状について」より参照
https://kcmc.kanagawa-pho.jp/department/psychiatry.html
※11 植田紀美子(2023)「療育と児童発達支援の現状と課題」社会保障研究,Vol8,NO1,p4-p16.
https://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/sh28080102.pdf
3.教育機関との連携体制
地域行政によるスクリーニングや発達支援教室、専門機関での診断や療育を経たあとにも、就学に向けた各教育機関との連携が必要となる。一般的に、なんらかの身体的・精神的障がいを有する子どもは、その状態に応じて特別支援学校への入学、教育機関に併設される特別支援学級への通級、普通学級への入学、あるいは普通学級に在籍したうえで特別支援学級へ通級するなどさまざまなパターンが存在する。
また、就学を希望する教育機関に在籍期間中に対応可能な人材が揃っているか否か(人員配置や資格の有無)などの受入体制に左右されることもある。子ども側の行動特性を考慮した配慮の必要性や、医療処置の有無などによる追加配置の必要性なども影響し、受け入れ体制を一律に規定することもできない。
この度の5歳児健診の新設を契機に、その後のフォローアップ体制の整備や受け皿の拡充、教育機関との連携体制の強化も併せて検討していく必要があるだろう。