(※写真はイメージです/PIXTA)
入居から1ヵ月…初面会でみた母の異変
友人にも「ひとり暮らしの母が心配だ」という相談をしていた明美さん。そのなかのひとりから、こんなアドバイス。
――こっち(東京)の老人ホームに入ってもらうというのは?
老人ホームに対してポジティブな印象をもっていなかった明美さん。「寝たきりの高齢者が入居する施設」というイメージしかありませんでした。しかし「最近の老人ホームは全然違うの。高級ホテルみたいなところも多いし、元気な人が入るような施設もあるみたい」と、その友人。いろいろと調べてみると、確かに今どきの老人ホームはどこも明るく、清潔感がある雰囲気。また介護を必要としない健康な高齢者が入居できる施設もあり、そこは本当に高級ホテルのよう。「こんな老人ホームであれば、お母さんも楽しく暮らせるんじゃないかな」と、コロッと心変わり。
早速、明美さんは洋子さんに電話をし、「老人ホームに入るとしたら、どのようなところがいい?」と質問。はじめは「老人ホーム!?」と訝しそうにしていましたが、しっかりと趣旨を説明。そのうえで洋子さんがあげた希望は、「安心して過ごせるところ」「東京のホームであれば、あなた(明美)さんの家からも近いところ」の2点のみでした。また費用は「出すことができて月に25万円くらい。年金が月15万円くらいでしょ。貯金の取り崩しも月10万円くらいが限度だと思うの」といいます。
そんな要望に合致するホームをポータルサイトで探すと……ありました。しかも写真を見る限り、おしゃれなリゾートホテル風。「自立型(健康型)有料老人ホーム」というカテゴリーの施設で、洋子さんのように基本、介護を必要としない人が対象。もし介護が必要になった場合は、同じ会社が運営する別施設への転居も可という点もポイントでした。
――こんなホームなら、お母さんも喜んでくれるはず
洋子さんを呼び寄せ、まずは見学。明美さんも洋子さんもひと目で気に入り、ホームへの入居はトントン拍子で決まりました。めでたし、めでたし……というわけにはいきませんでした。
洋子さんが老人ホームに入居してから、明美さんは仕事が忙しくなってしまい、さらにインフルエンザにかかってしまったことから、初面会は入居から1ヵ月後。「楽しく暮らしているかな?」と、少々ワクワクしてホームを訪れたといいます。しかし、そこで目にした洋子さんの姿は、想像もしなかったものでした。
ホームのエントランスを抜けると広がるダイニング。ちょっと素敵なレストラン風で、食事のとき以外も入居者が集いおしゃべりに興じたり、サークル活動が行われたりするスペースです。そこにひとりたたずむ洋子さん。ひとりもの思いにふけているのか、1点をじっと見つめています。そんな洋子さんの様子をしばらくみていましたが、ただ時間が流れるだけ。さらに気づいたのが、この1ヵ月でずいぶんと痩せた、というよりもやつれた様子。
たまらず洋子さんに声をかけた明美さん。振り返る洋子さんは、明らかに痩せてしまい、目に力がありません。以前の母とは違う姿に動揺を隠せない明美さん。とりあえず一緒に居室に戻ることにしました。
そこで聞かされたのは、入居者と馴染めないという話。
――やっぱり東京の人とは合わなくて……
入居当初は、積極的に知り合いを作ろうとしたという洋子さん。しかし話についていけないことも多く、次第に、知り合いをつくろうという気もうせてしまったといいます。そうすると、食事ものどを通らなくなり、痩せてしまった……という顛末でした。
同年代の入居者も多いと聞いていた明美さん。社交的な洋子さんならすぐに知り合いができて、楽しく暮らせるはずと思っていましたが、簡単なことではなかったようです。高齢で新しい地に住むということは、思っている以上にハードルの高いことだったようです。
――老人ホームなんて勧めるんじゃなかった
後悔のあまり、涙がこぼれてしまったという明美さん。ただ東北の実家でひとり暮らしも考えもの。どうしたらいいのか、どうしたら母のためなのか……答えを出せずにいるといいます。
[参考資料]