介護施設にはネガティブなイメージを抱く人が多いかもしれませんが、実際には全く異なります。リハビリテーションを取り入れた施設では、利用者の生活の質を向上させ、元気に自立した生活をサポートする場所でもあります。本記事では、川村隆枝氏の著書『亡くなった人が教えてくれること 残された人は、いかにして生きるべきか』より一部抜粋・再編集して、K爺さん(93歳・男性)の事例を通し、高齢期に他者と交流をもつことの重要性について解説します。
岩手県滝沢市の山奥「ポツンと一軒家」で自活していた93歳独居男性が息子夫婦と同居へ…元気な姿が一変、食欲がなくなり不自由な体になった理由
「外に出て人と接する機会」の重要さ
K爺さんの場合、広々とした自分の土地で自由に畑仕事をしていたけれど、諸事情のため街中の家に移りベッド上生活を余儀なくされ生活が一変したことにより、廃用症候群に陥ったことは容易に想像できます。加えてご長男の闘病生活というストレスも誘因になったと思います。
とにかく、早目のリハビリ開始が効果的で心身共に回復されたことは望外の喜びです。いつぞやリハビリ担当の田村君が自宅に送り届けたときに、2mの立派な蛇の抜け殻を木箱に入れて自慢げに見せてくれたそうです。私もあとで写真で見ましたが、立派というかなんというか、きれいに脱皮したのでしょうか? 切れ込みもなくオールインワンで不思議な感じでした。
私は、蛇は苦手で会いたくないのですが、所によっては守り神様と言って大切にしているらしいです。きっとこの2mの蛇は今でもK爺さんを見守っているのでしょう。今頃は、キツネやタヌキに囲まれ大好きな畑仕事をされている幸せそうなK爺さんの姿が思い浮かびます。豊かな大自然に囲まれて元気に長生きしてください。
ちなみに、廃用症候群になってしまうと、回復するためには廃用症候群に陥っていた期間の数倍の期間が必要となります。治療としては、自分のできる範囲で身の回りのことをし、規則正しく生活し、日中しっかり頭と体を動かすといったことが必要です。安全に移動できるように自宅内の段差をなくす、手すりをつけるなどの環境整備も大切です。リハビリやデイサービスといった体制を整え、外に出て人と接する機会をつくることも重要です。
大きな手術やけががあるときには、できるだけ早くからリハビリを行い、体を動かし、口からものを食べて胃腸を動かすといったことが必要です。安静の必要がある場合は、ベッドの上でもできる運動を取り入れます。また、体の維持に必要なエネルギーやタンパク質を十分摂取する必要があります。寝たきりで体を全く動かさないと、筋肉量は減り、数週間で関節のなめらかさが失われていくといわれています。体の向きを数時間おきに変える、手足を動かすリハビリを毎日行うといったケアが欠かせなくなります。
川村 隆枝
医師・エッセイスト