介護施設にはネガティブなイメージを抱く人が多いかもしれませんが、実際には全く異なります。リハビリテーションを取り入れた施設では、利用者の生活の質を向上させ、元気に自立した生活をサポートする場所でもあります。本記事では、川村隆枝氏の著書『亡くなった人が教えてくれること 残された人は、いかにして生きるべきか』より一部抜粋・再編集して、K爺さん(93歳・男性)の事例を通し、高齢期に他者と交流をもつことの重要性について解説します。
岩手県滝沢市の山奥「ポツンと一軒家」で自活していた93歳独居男性が息子夫婦と同居へ…元気な姿が一変、食欲がなくなり不自由な体になった理由
介護施設は暗くて死を待つ場所ではない
皆様、「介護施設」を利用するというと、どうしてもネガティブなイメージをおもちになる方も多いかと思います。暗い・死を待つばかりの場所……もしかしたらそんなイメージをおもちかもしれませんが、そんなことは全くありません。むしろ、安心して入れる楽園のような場所だと思っています。私の勤務する老健たきざわでは、通所リハビリテーションの部署があり、「ちょっといい話」であふれています。最近あったちょっといい話をご紹介していきたいと思います。
廃用症候群から畑仕事に復帰!―熊と対峙したお爺さん―
93歳、男性、親しみを込めてK爺さんと呼びましょう。K爺さんは岩手県滝沢市の山奥の最近テレビで人気の高い、いわゆるポツンと一軒家に一人で住んでいました。なんでも、自分で開拓した広大な敷地のなかだそうです。冬になると雪深く厳しい寒さとなるので、冬の間は盛岡市青山町の中心部にある息子さん夫婦の家で3人で住むことになりました。
当時は息子さんはがんを患い闘病生活で、妻は毎日病院通いをしていたため、K爺さんはほとんど毎日ベッド上の生活が続きました。それまでの畑仕事などはなく、近所に知り合いもおらずなにもしないで動かなかったせいか、食欲もなくなり自由に動けなくなってしまいました。
昨年3月に当施設の通所リハビリテーションに来たときは、「廃用症候群」と診断されてしまいました。「廃用症候群」という言葉を聞いたことがない方もいらっしゃるかもしれません。廃用症候群とは、病気やけがで安静にすることで体を動かす時間・強さが減り、体や精神にさまざまな不都合な変化が起こった状態をいいます。
例えば筋肉がやせて筋力が落ちる、関節の動きが悪くなる、骨が弱くなる、血圧の調節がうまくいかず起立性低血圧になる、痰や飲食物が肺に入り誤嚥しやすくなる、胃腸の動きが落ち便秘になりやすくなる、尿路結石を起こしやすくなる、精神的に落ち込みやすくなる、脳の動きが鈍くなり思考力が落ちる、睡眠のリズムが崩れ不眠症になるなど多彩な症状が出ます。
そんな廃用症候群になってしまったK爺さんは、筋力も低下し立ち上がるのもやっとで、歩くのも伝い歩き、転倒も多い状態でした。通所リハビリでは、基本動作訓練のほか階段昇降、ストレッチ、エアロバイクなど適宜行い、動いて動作が活発になったせいか食欲が出て食事量が増え、杖歩行もできるようになり、今では自宅の畑仕事もできるまでになりました。
自分で開拓したという森のなかの広大な土地には、米、りんご、さくらんぼなど色々な農産物が植えられています。また、さまざまな動物たち(ハクビシン、タヌキ、キツネなど)が出入りして賑やかです。昨年は自分の部屋の隣の小屋に2頭の熊がいるのに気づき、すかさず通報。今年は同じようにイノシシを発見。両方とも通報を受けた猟師さんが仕留めましたが、2頭の熊とイノシシは、ある日のK爺さんの食卓に上がりました。