マグロ漁船というと、借金で首が回らなくなった人が無理やり乗せられる“借金の末路”のようなイメージを抱く人も少なくないでしょう。しかし、両親の借金5,000万円の返済を助けるため、17歳にしてマグロ漁船員になった菊地誠壱氏によると、どうやらそうでもないようです……。菊地氏の著書『借金を返すためにマグロ漁船に乗っていました』(彩図社)より、詳しくみていきましょう。
「マグロ漁船=借金返済の最終手段」は誤解?…マグロ漁船に“街の荒くれ者”が集まるほんとうの理由【実体験】
休みの日はあるの?…マグロ漁船員の“日常”
マグロ漁船では休みというものが特に決まっておらず、船頭が縄を入れないと言えばそこで休みになります。1日休みになったときは、私は疲れを癒すためにひたすら眠ります。
漁船ではワッツ(ワッチ)という仕事があり、休みの日に周りに船がいないかどうかを2時間交代で見張ります。また、風向きを日誌のようなものに記入します。
夜は水平線を眺めても何も見えないので真っ暗ですが、ふとポツンと明かりが見えるときがあります。それが船ということになるのですが、船の衝突を避けるために明かりに近づく前に船長を起こし、船長が舵を取ってかわします。
英雄さんは私の番の前なので、ワッツになると私を呼びに来ます。
「ワッツ交代! せー、ワッツ! ワッツ!」
「顔を踏んで起こすのはやめてくれ!」
英雄さんはいつも私の顔を踏んで起こそうとしてきます。そして英雄さんと私のワッツの時間、合わせて4時間をいつも一緒に過ごしていました。そこで英雄さんはたまにカッパ用の接着剤をビニール袋に入れ、ラリパッパすることがありました。
「ラリパッパするか?」
「ううん、俺はしない」
あまり匂いが好きではなかったので私はやらなかったのですが、気持ちよくなるなら少しやってみたかったかも、と思っていました。
先輩ヤンキー「英雄さん」との不思議な縁
英雄さんとは不思議な縁があって、私が高校1年生のとき英雄さんに初めて会った後、いとこの不良の秀樹ちゃんからバイクを買わないかと言われました。
「おめー、ゴリラ買わないか? ボアアップしてっから100は回る(時速100キロは出る)ぞ!」
「マジか? ボアアップしてて100回る? すげーな。どうせ高校行ったら、チャリンコはダセーし単車だべ、勿論無免許だけど」
当時不良だった私はそんなことを考えていました。でも、そんないいバイクをどこから手に入れるんだ? と不思議に思っていました。しかし後日、その最高のマシンを手に入れました。なんと、そのゴリラのオーナーが英雄さんだったのです。
「せー、買うか?」
「買う! 欲しい!」
もしかして、初めて英雄さんと駅で会ったとき、組長さんと二人で乗っていたゴリラか? すげー! ワクワクして心が躍りました。
早速オヤジに交渉して、金をもらいました。
「父ちゃん、ゴリラ買うから5万けろ」
「わかった、いいよ」
こういう話には理解のある親父です。そんな感じで英雄さんのゴリラを手に入れたわけですが、しばらくしてゴリラを壊してしまい、後で英雄さんにちくちく言われました。