今回、ポイントの付与が禁止になった背景
今回ポイントの付与が禁止になった背景として、総務省は、仲介サイトがポイントで集客を競うなか、自治体が仲介サイトに支払う経費が膨らみ、本来の寄附の目的を果たしていないということを理由として挙げています。
これに対して、ふるなび、ふるさとチョイス、さとふる、楽天の大手4サイトは、ポイントは自社で負担し、ポイント競争の過熱と自治体の経費の多寡は無関係だとしています。
とはいえ、自治体が仲介サイトに経費を支払うこと自体については否定できないでしょう。ふるさと納税の寄附を自治体にするといっても、直接自治体に連絡をして返礼品を選び、銀行振り込みをすることはほぼあり得ません。
ふるさと納税はほとんどの場合、仲介サイトを通じて行われます。各社仲介サイトは、非常に使い勝手のよいサイトを提供しています。たとえば、ネット通販も展開する大手サイトを例にすると、返礼品の検索機能、ジャンルごとのランキング、金額の比較、クレジットカード決済など、ネット通販で物品を購入するのとほぼ変わらないくらいの利便性の高いサイトを運営しています。一方で、これと同等のサイトを地方の自治体が運営できるかといえば、まず不可能でしょう。
これらを見ても、現在のふるさと納税の高い認知と浸透は、仲介サイトが牽引してきたといっても過言ではありません。
ポイント付与禁止によっておよぶ影響
最後に、今回のポイント付与禁止によって、利用者、自治体・仲介サイトそれぞれにどのような影響があるのかみていきます。
ふるさと納税の利用者への影響
各仲介サイトがポイントに代わるサービスを新たに提供しない限り、ふるさと納税の利用者にとっての新たなメリットはないといえます。そもそも、ふるさと納税をする動機は、
・「返礼品+ポイント」の2つのメリット
・「節税メリットを取りきるまでに時間がかかる」1つのデメリット
これらを天秤にかけてもメリットが大きいと感じる場合でしょう。今回のポイント付与禁止により、メリットは1つに減少します。そうなると、
・自治体が現在よりも魅力的な返礼品を提供する
・自治体が返礼品に対する寄附金額を下げる
・国が限度額を上げる
のいずれかをしない限り、ふるさと納税に対する相対的な需要は減ると考えられます。
実質的な損をするわけではありませんが、いままでもらえていたものがもらえなくなるという心理的な損失は大きいでしょう。結果的に、自治体の財政にも悪い影響を与えることにも繋がる可能性があります。また、上記の3つのいずれも、広くみればふるさと納税に対する全体なコストを上げることになり、自治体の経費を抑制するという本来の目的が達成されないことにもなり得ます。
自治体・仲介サイトへの影響
自治体レベルで考えた場合、「減少する経費」と「減少するふるさと納税」との比較で得する自治体と損する自治体が分かれると考えられます。
得するのは「減少する経費>ふるさと納税の金額の減少」となる自治体です。具体的には、魅力のあるふるさと納税の返礼品に対しての需要が衰えず、ふるさと納税の金額がそれほど落ちない場合、得をします。
一方で、損するのは「減少する経費<ふるさと納税の金額の減少」となる自治体です。仲介サイトに支払う経費は抑制できても、ふるさと納税の返礼品に対しての需要がそれ以上に減少し、ふるさと納税の金額が落ちない場合は損をするでしょう。
そして、仲介サイトのレベルで考えると、淘汰される仲介サイトも出てくる可能性があります。「自治体からの経費=仲介サイトの運営費+利益」であるため、自治体の経費が減少すれば仲介サイトの運営自体が赤字になり、撤退せざるを得ない可能性も。
もちろん、淘汰される仲介サイトが出てくれば、残った仲介サイトで需要をわけ合うことになるため、その点では残った仲介サイトが得する可能性もあります。
まとめ
今回のポイント付与禁止にとどまらず、ふるさと納税の制度改定は今後も行われる可能性があります。自治体、仲介サイト運営者だけに限らず利用者も、ふるさと納税の本来の制度趣旨・目的がどこにあるのかを見極め、変化に伴った選択が求められるでしょう。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。
鄭英哲
株式会社アートリエールコンサルティング
税理士/公認会計士/証券アナリスト/CFP/宅地建物取引士
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