子どもがいない夫婦の場合、義弟の遺産相続権は?

「夫との思い出が詰まった家を売らなきゃいけないの……?」

義弟の言葉でなにが正しいのかわからなくなったヤスコさんは、まず知り合いのファイナンシャルプランナーに相談することにしました。

するとそのFPは「法定相続人」のキホンについて下記のように教えてくれました。

FP「法定相続人とは『遺産相続の権利があると法律で定められた人』のことです。法定相続人には相続順位が定められています」

出所:筆者作成
[図表1]法定相続人の順位 出所:筆者作成

ヤスコさん「なるほど。義母やタカフミさん(義弟)にもマサルさんの遺産をもらう権利があるのね……」

FP「いえ、全員に相続権があるのではありませんよ。上位の順位に該当者がいない場合に、順次、下位の順位の相続人に相続権が移っていきます。

今回の場合、配偶者のヤスコさんは常に相続人です。そして、第1順位の「子」はいらっしゃらないため、相続権は第2順位の「親」に移ります。マサルさんのお母様はご存命とのことですので、相続権は第2順位までで、第3順位の兄弟姉妹には相続権がありません」

出所:筆者作成
[図表2]法定相続人の相続割合 出所:筆者作成

法定相続割合どおりに分割すると、マサルさんの遺産の2/3をヤスコさんが、1/3を義母が相続することになります。ただし、相続割合は遺産分割協議にて法定相続人全員が納得すれば、任意で決めることができます。

「つまり、現状だとタカフミさんに遺産を受ける権利はないってことなんですね。なるほど……」

FPに相談後、一連の話をタカフミさんにしたところ、「そんなバカなことがあるか!」と、案の定怒ってしまいました。佐々木夫妻には子どもがいないため、自分にも相続権があるものと思い込んでいたようです。

「わざわざシンガポールからここまで来たのに、一銭も得ずに帰るなんてありえない」と考えたタカフミさんは、往生際悪く騒ぎ立てました。

「いや、遺言書があれば話は別だよな。俺と兄さんは仲がよかったから、きっとあるはずだ!」

タカフミさんは家中を探し回りましたが、もちろん遺言書らしきものは見当たりません。トラブルが長引くのを避けるため、ヤスコさんも法務局の「遺言書保管制度」の利用有無も調べましたが、利用はなかったようです。

そもそもマサルさん本人にとっても、こんなに早く亡くなるつもりはなかったでしょうから、遺言書の準備などしていなかったのでしょう。結局、遺言書は見つかりませんでした。