夫の死を知らせてきた「内縁の妻」

ある日、中野敦子さん(70)は夫の弘さん(享年72)が亡くなったとの知らせを受け取りました。送り主は吉田真美さん(64)。弘さんと10年前から共に暮らしていた内縁の妻です。

「え? あの人、亡くなったの?」

書面には、弘さんが持病の悪化により急逝したこと、そして葬儀はすでに身内のみで執り行われたことが記されていました。

敦子さんと弘さんが別居したのは、2人の子どもが独立した15年前のことです。弘さんが家を出て、マンションで一人暮らしを始めました。以来、弘さんとの生活費のやり取りはなく、いまではほとんど音信不通の状態が続いていました。

敦子さんはかつて4人家族で暮らしていた弘さん名義の家に、一人で生活しています。別居後に真美さんと内縁関係になった弘さんは、敦子さんに離婚を求めました。しかし、離婚後の自分の住まいや生活を考えると、敦子さんは離婚に応じることはできませんでした。

「私は離婚しませんから」

頑なな敦子さんと連絡を取るのが苦痛になったのでしょう。関係は放置されたまま、弘さんは帰らぬ人になりました。

10年以上顔を合わせていない夫の死に直面し、悲しみよりもこれからの自分の生活を守らなくてはという切実な思いがわき上がった敦子さん。

敦子さんは、まず遺族年金の手続きを進めようとしました。戸籍上の妻である以上、当然自分が受け取れるものだと思っていたからです。

ところが、真美さんもまた遺族厚生年金を請求していたのです。

遺族厚生年金は内縁の妻へ――「私が正式な妻なのに、なんで?」

両者からの請求を受け、日本年金機構が調査を開始しました。弘さんと敦子さんの別居期間、生活費の送金の有無、連絡の状況。調査の結果、弘さんと敦子さんの婚姻関係は「実体を全く失っている」と判断され、真美さんへの遺族厚生年金の支給が認定されました。

「私が戸籍上の“正式な妻”なのに、どうして他人が受け取るの? 酷いわ」

遺族年金が不支給になり、敦子さんは大きなショックを受けました。

一生涯受け取れるはずの遺族年金が受け取れない敦子さんに残されたのは、弘さん名義の自宅と預貯金約1,500万円を相続する権利です。法定相続人は敦子さんと子ども2人。遺言はなく、真美さんは対象にならないため、遺産はそのまま3人で相続することになりました。