母のためを思って提案した「サ高住」への入居

不動産投資で副収入を得ている会社員の田中誠司さん(仮名、54歳)は、地元の駅前再開発に強い関心を持っていました。新しいショッピングモール、公共施設、そして最新設備を備えたサービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)の建設。

誠司さんは、この開発が母親の新しい生活の場になるかもしれないと期待を寄せていました。というのも、年末年始の帰省で実家を訪れた誠司さんは、78歳の母・和子さん(仮名)の様子に衝撃を受けたからです。

3年前に実父が他界してからの独居生活。月15万円の年金で何とか暮らしていた和子さんでしたが、昨年の外反母趾の手術以来、足腰が急速に弱っていたのです。

「毎日のように電話で『まだ自分でできる』と言い張る母でしたが、実家に着くなり、台所に使用済みの食器が山積みになっているのを目にしました。シルバーカーを使っても、近所のスーパーまでの往復がやっとの様子で……」

和子さんは、施設入居を頑なに拒んできました。「私の友達は皆、自分の家で暮らしているのよ」と譲らない母親に、誠司さんは新しくできるサ高住のパンフレットを見せます。

「自分の部屋があって、好きな時に友達を呼べる。困ったときだけ助けてもらえる。それなら……」と、ようやく重い口を開いた和子さん。

誠司さんは、これが最後のチャンスだと思いました。