日本は「投資大国の実現」を経済政策の柱にしてきた。粘り強い政策展開の成果もあり、家計の金融資産におけるリスク資産の割合を伸ばしてきた。本稿では、金融リテラシーの現状と今後の展開について、特に「金融リテラシー・ギャップ」に焦点を当て、ニッセイ基礎研究所の西久保瑛浩氏が詳しく解説する。
これからの資産形成、加速のカギは「金融リテラシー・ギャップ」か。「貯蓄から投資へ」の20年間…日本人に足りなかったのは「自信」 (写真はイメージです/PIXTA)

金融リテラシー・ギャップの解消に向けて~「教育」と「経験」に注力

自信を向上させる方法については、本稿の分析から2つの示唆が得られる。1つは、金融教育が自信を向上させる効果を活用することである。前述のとおり、日本ではまさに金融教育が本格実施され始めたところであるが、少なくともその内容には、「自身の金融リテラシーのレベルを正しく認識する」という要素を組み入れる必要があるだろう。

 

もう1つは、投資行動(=経験)と自信との相互関係を利用することである。小規模かつ手頃な投資経験であっても、それが自信を向上させ、その自信がさらなる投資行動を生む相乗効果は存在すると考えられる。NISAや確定拠出年金はまさにその意味で効果が期待される。また、東京証券取引所が推進している投資単位の引き下げや、従業員に対する福利厚生制度としての資産形成支援なども、投資経験の獲得を促進する効果が期待される。

 

加えて、金融教育において投資に近しい経験を得られる実践的な手法を取り入れることは、金融教育の直接的な自信向上効果と、経験の獲得による相乗効果の両者が期待できる極めて効果的な手段であるといえる。実際米国では金融教育用のゲーム教材の効果が報告されているが、日本でも金融教育に関する実践的な教材や出前授業は民間団体等により提供されているため、教育現場における広範な活用、あるいはそれを後押しする体制を構築することは有効策となり得るだろう。一方で、過度な自信は必要以上のリスクテイクや金融犯罪への接近を招く恐れがあることには当然注意が必要だ。

 

以上を総括すると、今日本で求められているのはまさに「金融リテラシー・ギャップ」の解消であるといえる。これまで金融リテラシーの向上に焦点を当てた施策はさまざま実施されてきたが、その自信を適正化するための取組みはあまり行われてこなかった。日本が「投資大国」を目指すうえで、金融リテラシー・ギャップの解消は重要な論点になるだろう。