両親の事業失敗で負った5,000万円の借金を返済するため、17歳にしてマグロ漁船員になった筆者。仲のいい先輩に誘われ臨んだ二度目の航海には、筆者と同じ見習いの姿も。マグロ漁船の生活はいったいどのようなものなのでしょうか。菊地誠壱氏の著書『借金を返すためにマグロ漁船に乗っていました』(彩図社)より、詳しくみていきましょう。
マグロ漁船員は“マッチョ”だらけ!?…親の借金5,000万円返済のため「マグロ漁船」に乗った“元ヤンチャ少年”が語る〈船内の実態〉
マグロ漁船員が「筋肉ムキムキ」になる理由
「せー、氷砕き手伝え! 毎朝少し手を貸してくれな」
「氷? わかった」
「魚のエラと腹に氷を詰めて綺麗に並べることを『漬ける』っていうんだ。鮮度のいい状態で陸まで持っていくんだよ」
この氷を砕くというのが本当に大変で、カッパを着てカメに入るとかなり寒いです。大きなメカジキが何匹も釣れたら、操業中にカメに入って氷をスコップで掘って、メカジキを置く場所を作ります。
運んだ氷は、英雄さんがメカジキの腹とエラの中に入れ、漬けていきます。同じようにマグロも漬けていくのですが、かなり疲れる仕事です。英雄さんもよくやっていられるなと思っていました。
「せー、疲れたか? 若いから大丈夫だべ」
「結構疲れた……」
氷砕きも氷掘りも大変な仕事だと実感しました。こんな感じで私は英雄さんの手伝いをしていて、どこへ行くのも一緒で舎弟のようについて回っていました。
「今日はメカ(メカジキ)が多いから、カメ入って氷砕きだ!」
「おう! わかったよ」
今思えば、カメの中の構造を頭の中でシミュレーションして管理していた英雄さんは、当時20歳やそこらでした。あの若さで大したもんだなあと改めて尊敬します。
ちなみに、大量のサメをカメに入れておくのですが、サメは死ぬとアンモニア臭が出るので、なかなかの異臭でした。
釣った魚でいっぱいになるカメの中は、ものすごい迫力です。これは壮観だ、いいものを見たと思いましたね。
近海マグロ漁船のマグロは鮮度が自慢ですが、これは冷凍長の腕次第と言っても過言ではないでしょう。何百キロもある大物のメカジキをアンカーで吊るし、「ほら! 行くぞー」という掛け声でカメの中までウィーンと下ろすんですが、それを受け取りメカジキを寝かせるという大変な力仕事は私の役目でした。
おかげでかなり筋肉がつきましたね。マグロ漁船員が港に帰る頃には間違いなく筋肉ムキムキになります。私も当時は120キロのマグロを持ち上げて、シャワールームに立たせて生(血)を抜いていましたから。
菊地 誠壱
元マグロ漁船員/Youtuber