親の借金5,000万円を返済するため…17歳の「マグロ漁船員」が最初に任された仕事“サメ殺し”とは【実話】

できない人は役立たず…仕事の7割を占める“とある作業”

甲板の仕事の中でもかなりの割合を占めるのがスナップ外しです。仕事の7割くらいはスナップを外しているように感じます。

スナップを縄から外せないと、スナップが縄と一緒にラインホーラーに巻かれてしまう。すると、ブランの先端についた針が飛んできて非常に危険です。

スナップも外せない人は役立たずとみなされます。言うまでもなく船員はみんなスナップを外せます。

ラインホーラーを操るハンドルの人がいちいち縄を止めることなどありません。それは効率が悪いから、そして寝る時間が無くなるからです。ノンストップで巻かないと野次が飛びます。止められると「いいから早く巻け！　何してんだ」とか怒る人もいます。もつれといって時々縄がクシャクシャに絡まることがあるのですが、それがない限りは止めずにバンバン巻いていくので、こっちもスパンスパンと外さなければいけません。

スナップを外してブランを手繰れればとりあえずは仕事ができるのですが、私は初めのうちはなかなかできずに苦戦していました。縄の上を走るスナップにうっかり指を入れて怪我しそうになったり、スナップを握りしめたまま身体がラインホーラーに引っ張られて吹っ飛ばされたりしました。

出典：『借金を返すためにマグロ漁船に乗っていました』（彩図社）より抜粋

そんなこんなでモタモタしていると、身長が高くてちょっと怖い山本さんというじいさんが、不満を言いたそうな顔で私に近づいてきます。内心、これは嫌われてるな～と思っていました。

「スナップ外せないなら左手でスナップ止めて、縄の上滑らせて外せ！」

「わかったっす！　やってみます！」

なるほど、これはいいかもしれないと思い、早速左手を犠牲にして、縄を握るようにしてやってくるスナップを止めてみました。ズズズズ、となんとか外せたので、とりあえずこれで行こうと思って無理やり外していました。

するとスナップが縄の継ぎ目の太くなった部分に引っ掛かり、ドーンとラインホーラーのほうに体が吹っ飛ばされたので、すぐにこのやり方は禁止になりました。

結局、この航海中にスナップ外しをマスターすることはできませんでした。でも案外慣れるもので、次の航海からは簡単に外せるようになりました。

菊地 誠壱
元マグロ漁船員／Youtuber