引退後、愛する子や孫と一緒に幸せに暮らす老後に憧れる人も少なくないのではないでしょうか? その際、程よい距離感を保てる「二世帯住宅」は人気の高い選択肢といえます。一見、メリットの多そうな二世帯住宅での暮らしですが、蓋を開けてみると「想定外の事態」が待ち受けていることも。今回は、60代夫婦の事例をもとに、二世帯住宅での同居が失敗してしまうケースについて、ファイナンシャルプランナーの辻本剛士氏が詳しく解説します。
同居なんてしなければ…〈年金月25万円・退職金2,000万円〉の67歳・元会社員、二世帯住宅で“夢の老後生活”を始めるも一転、大修羅場→親子断絶へ。さらに判明する「衝撃の事実」に絶句【FPの助言】
二世帯住宅の売却を試みるも…
浩二さんは不動産に足を運び、自宅の売却を試みていました。しかし、担当者の反応は思わしくありません。
「二世帯住宅はなかなか需要が少ないんですよね。購入を検討する方は限られてしまいますし、特に築浅でもこういった形の住宅は、一般的な買い手がつきにくいんです」
担当者からの説明を聞き、浩二さんは言葉を失いました。二世帯住宅という特殊な構造が、買い手を見つける障壁になっていたのです。
それから1年が経ちますが、現在も自宅は売却できておらず、咲さん夫婦とは気まずい関係が続いています。
「こんなはずじゃなかった……」
浩二さんは心のなかで何度もそうつぶやきます。二世帯住宅を建てる際に、資産4,000万円のうち3,000万円を頭金として入れたことが、今になっては大きな後悔となっていました。
知っておくべき二世帯住宅の「デメリット」
近年、共働き世帯の増加などの理由から、二世帯住宅に対する需要が伸びつつあります。しかし、二世帯住宅には多くのメリットがある一方で、気をつけなければいけないデメリットもあります。
●子育てや家事、介護などの生活を助け合える
●世帯をまとめることで建物のコストカットが可能になる
二世帯住宅は子育て世代にとって、親世帯のサポートを受けながら生活できるメリットがあります。特に共働き世帯にとっては、育児や家事の負担を軽減できる点は魅力的といえます。一方の親世帯にとっても、孫と一緒に過ごす時間が増えることで心の癒しを得られます。将来的な介護負担の軽減も期待でき、安心して過ごせるでしょう。
また、建築費用は二世帯住宅として1つの建物を共有することで、通常の戸建て住宅を二軒建てるよりもコストを抑えられる点もメリットといえます。ただし、水回りなどを別々にしたり、建物を完全に分けたりする二世帯住宅の場合は、設備や構造が重複するため建築費用が高くなる場合があります。
一方で、二世帯住宅には次のようなデメリットもあるため、あらかじめ理解しておく必要があります。
●同居世帯との生活リズムの相違がストレスになることも
●離婚時の財産分与でトラブルに発展する場合も
今回のケースでは、親子間の生活リズムや価値観などが原因で、このような事態を招くことになりました。ほかにも、離婚した際に二世帯住宅が財産分与の対象となり、親世帯と子世帯の間でトラブルに発展するケースも。
二世帯住宅は1つの建物を共有しているため、名義や持ち分の問題が複雑になりやすく、離婚によって建物が差し押さえられるなどのリスクもあります。こうしたリスクを理解したうえで、親子間で十分に話し合い、ルールや役割分担を明確にしておくことが大切です。具体的には、生活スペースの使い方や光熱費の分担、騒音対策などのルール作りが有効でしょう。
二世帯住宅は、家族同士の助け合いが期待できる一方で、生活の違いや将来的なトラブルのリスクも伴います。こうした点を踏まえて、お互いにとって快適で安心できる生活を築く努力が必要といえます。
辻本 剛士
ファイナンシャルプランナー