仕事に身を捧げていればいるほど、退職してから虚無感や退屈感にさいなまれるという人も少なくありません。しかし、そうした感情を紛らわせるために刺激を求めたことで、老後の資金が瞬く間に底をついてしまうことも……。そこで本記事では、ファイナンシャル・プランナーの青山創星氏が、退職後に友人からの誘いで投資を始めた榎戸恭平氏(仮名・67歳)の事例とともに、老後の資産管理の重要性について詳しく解説します。
通帳を見た妻、絶叫。夫婦で平穏に暮らす年金月21万円・貯蓄2,500万円の67歳元会社員がすべてを失い「暗黒の老後」へ転落したワケ【FPの助言】
老後資金が蒸発…一攫千金の夢が家族を崩壊させるまで
とどめを刺したのは、バイナリーオプション取引でした。木村さんから「うまくいけば相当儲かる」と吹き込まれ、大きく減らしてしまった貯蓄を取り返そうと焦った榎戸氏は、貯蓄の残りのほとんどを投入しました。その結果、あっという間にすべてが蒸発してしまったのでした。
様子のおかしい夫に違和感を感じていた洋子さん。ある日、年金引出しの際に通帳を見て絶叫しました。
「何をしてるの! 私たちの老後はどうなるの!」
驚愕と怒りが入り混じった叫びでした。榎戸氏は我を忘れた自分にようやく気づきましたが、すべては遅すぎました。
取引1回で平均5%の損失!?「バイナリーオプション」の仕組みとは
バイナリーオプションとは、通貨の値動きを非常にシンプルに予測する投機的な取引方法です。具体的には、ある通貨が「上がる・上がらない」という2択(バイナリー)で予測を行います。
<取引のルール>
- 予測の時間枠が事前に決められています(例:2時間後)
- その時点で自分の予測通りに値動きしていれば勝ち
- 予測が外れれば負けとなります
具体的には、たとえば、1,000円を賭けた場合、
●勝った場合:900円の利益(ペイアウト率90%)
●負けた場合:1,000円の全額損失
<確率の仕組み>
勝ちと負けの確率は50%:50%となります。最初は「ビギナーズラック」で勝ち負けに偏りがあるかもしれませんが、長期的に見ると半々の確率に収れんします(大数の法則)。
<期待値の計算>
期待値 = (900円 × 50%) + (−1,000円 × 50%) = −50円
つまり、1回の取引毎に平均すると掛金の5%(=50円÷1000円)を失うことになります。
<重要な裏側事情>
- ペイアウト率(元本に対するリターンの割合)は常に100%未満
- 負けた場合は投資額の全額を失う
- ビッドとオファーの差による構造的な損失
ビッドとオファーの差によって、取引のたびに、わずかずつではあっても必ず業者側に利益が生じ、取引者側には損失が生じる仕組みになっています。コンビニでジュースを仕入れる価格と売る価格の差に似ています。
<元本の減少メカニズム>
取引を重ねるごとに、元本は徐々に減少していきます。
1回目:100万円 × 95% = 95万円
2回目:95万円 × 95% = 90.25万円
10回目:約63万円
90回目:約1万円
実際には、ビッドとオファーの差によってこれよりも早く元本はゼロに近づくこととなります。バイナリーオプションは、娯楽ならともかく、収入源として考えるのは適切ではありません。胴元(業者)は常に儲かり、ギャンブラー(取引者)は総体として必ず損をする構造になっているからです。
友人の木村さんはその当時は儲けを得ていたようですが、