老後資金が蒸発…一攫千金の夢が家族を崩壊させるまで

とどめを刺したのは、バイナリーオプション取引でした。木村さんから「うまくいけば相当儲かる」と吹き込まれ、大きく減らしてしまった貯蓄を取り返そうと焦った榎戸氏は、貯蓄の残りのほとんどを投入しました。その結果、あっという間にすべてが蒸発してしまったのでした。

様子のおかしい夫に違和感を感じていた洋子さん。ある日、年金引出しの際に通帳を見て絶叫しました。

「何をしてるの! 私たちの老後はどうなるの!」

驚愕と怒りが入り混じった叫びでした。榎戸氏は我を忘れた自分にようやく気づきましたが、すべては遅すぎました。

取引1回で平均5%の損失!?「バイナリーオプション」の仕組みとは

バイナリーオプションとは、通貨の値動きを非常にシンプルに予測する投機的な取引方法です。具体的には、ある通貨が「上がる・上がらない」という2択(バイナリー)で予測を行います。

<取引のルール>

  1. 予測の時間枠が事前に決められています(例:2時間後)
  2. その時点で自分の予測通りに値動きしていれば勝ち
  3. 予測が外れれば負けとなります

具体的には、たとえば、1,000円を賭けた場合、

●勝った場合:900円の利益(ペイアウト率90%)

●負けた場合:1,000円の全額損失

<確率の仕組み>

勝ちと負けの確率は50%:50%となります。最初は「ビギナーズラック」で勝ち負けに偏りがあるかもしれませんが、長期的に見ると半々の確率に収れんします(大数の法則)。

<期待値の計算>

期待値 = (900円 × 50%) + (−1,000円 × 50%) = −50円

つまり、1回の取引毎に平均すると掛金の5%(=50円÷1000円)を失うことになります。

<重要な裏側事情>

  1. ペイアウト率(元本に対するリターンの割合)は常に100%未満
  2. 負けた場合は投資額の全額を失う
  3. ビッドとオファーの差による構造的な損失

ビッドとオファーの差によって、取引のたびに、わずかずつではあっても必ず業者側に利益が生じ、取引者側には損失が生じる仕組みになっています。コンビニでジュースを仕入れる価格と売る価格の差に似ています。

<元本の減少メカニズム>

取引を重ねるごとに、元本は徐々に減少していきます。

1回目:100万円 × 95% = 95万円

2回目:95万円 × 95% = 90.25万円

10回目:約63万円

90回目:約1万円

実際には、ビッドとオファーの差によってこれよりも早く元本はゼロに近づくこととなります。バイナリーオプションは、娯楽ならともかく、収入源として考えるのは適切ではありません。胴元(業者)は常に儲かり、ギャンブラー(取引者)は総体として必ず損をする構造になっているからです。

友人の木村さんはその当時は儲けを得ていたようですが、取引をしてきた中では大損をしていた時期もあった可能性もあり、素人の榎戸氏が安易に手を出したのは大きな間違いだったのです。