東大出身の中野信子氏は自身も含め、周囲の人で「勉強しろ」と言われて努力を積み重ねてきたタイプは少なかったといいます。しかし、親は心配のあまり口を出してしまいたくなるもの。子どもを支配下に置きたがる親の心理について、中野氏による著書『なぜ、愛は毒に変わってしまうのか』(ポプラ社)より、詳しく解説します。

高校一年で東大模試A判定→“コツコツ勉強”を続けた結果、東大不合格で中堅私大に入学…高IQ集団「MENSA」会員の後悔【脳科学者が解説】
子の「勉強」は誰のため?
わざわざ勉強をしなくてもとても勉強ができたのに、「真面目に勉強をやってほしい……」という親の気持ちを忖度してコツコツと勉強をやるようになった結果、成績が落ちてしまい志望校に合格できなかったという男性を知っています。
勉強もできるけれど、何より頭がキレて、弁も立ち、合理的でスマートな問題解決をさらりとできる人。そういう人に無駄に勉強させてしまったせいで、むしろその芽が摘まれてしまったのです。
JAPAN MENSAの会員の方で、私はその方と大人になってから出会ってその話を聞きました。
高校一年の段階で、東大模試でA判定が出ていたのに、勉強すると全体像がブレて、点数がとれなくなった。本人は、周囲が頑張るようになったから、相対的に自分の順位が下がっただけだよ、と言いますが、とてもそんな風には思えないようなキレの良さを持っているのです。聞けば、彼自身は必要な勉強というより、やったことをアピールできるような勉強法に途中から変更したということでした。
彼のお兄さんはコツコツやるタイプだったようです。お兄さんがそうだったから、弟である彼にも同じように、と思ったのかもしれません。彼自身も「母親がこうあってほしいと思う子ども」像を敏感に察知して実行したのでしょう。しかしその結果、自分を犠牲にすることになってしまった。
結局彼は東大には合格せず、中堅私大に入学しました。ご両親は東大卒のお兄さんのほうを誇りに思っているようだと、彼はいくぶん自虐的に言います。
彼は私立大学を卒業後、持ち前の頭脳を生かして事業家として成功していますが、本人としては後悔もあるようですし、学歴に関係する事物へのコンプレックスもあるようです。そもそも男性はヒエラルキーにとても敏感な生きものです。彼の中でも自分はお兄さんに負けているかもしれないという意識が拭えないのかもしれません。
とはいえ、彼本人は頭がよすぎて、向かい合って話していると緊張して変な汗が流れるような感じがするほどの人です。声を荒らげる姿など、一度も見たことはないのですが、何もかも見透かされているような気がして、すごく怖い。彼のことを知っている人は皆、一様に「おっかない人だよ」と言います。
話しているときの頭のキレや知識の豊富さ、興味の範囲、物の見方などから、東大には楽々受かるポテンシャルのある人だということは容易にわかります。実際に知能指数は高く、地頭がとてもいい人です。