東大出身の中野信子氏は自身も含め、周囲の人で「勉強しろ」と言われて努力を積み重ねてきたタイプは少なかったといいます。しかし、親は心配のあまり口を出してしまいたくなるもの。子どもを支配下に置きたがる親の心理について、中野氏による著書『なぜ、愛は毒に変わってしまうのか』(ポプラ社)より、詳しく解説します。

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子どもを支配下に置こうとする親
私の周囲の東大生に話を聞くと実は「勉強しろ」と言われて育った人は少数派であるような感があります。私がそうであったように「勉強するな」と言われたり、本を読んでもいい顔をされないので隠れて読んでいたり。あるいは「この子は変わっている」「子どもらしくない」と心配されたり。
統計を取ったわけではないのでリアルなデータはわかりませんが、少なくとも私の周りは「勉強しろ」と言われて素直にコツコツとやってきたタイプは少なかったのです。
勉強ができ、成績がよくても親は心配になるもののようです。心配していた親の心理はどういうものであったか。自分の手元からどんどん離れていき、自分をはるかに凌駕する感じが親としては分離させられるようで寂しかったのではないでしょうか。
親御さんたちは、子どもが社会の中でうまくやっていけるようにと心配する気持ちももちろん持っているでしょうが、絆が薄まってしまうことへの不安のほうが時に大きくなってしまうことがあるのかもしれません。
子との絆に親としてのレゾンデートルを求めるのは完全に親側の自分勝手な都合です。絆に何かを求める気持ちが強すぎて、「この柵の向こうへ行ってはいけませんよ」と枠を設けて子どもを支配下におくことで安心しようとする。
たしかに自分の子どもなのに、自分にははかりしれない能力を持っていたら、戸惑ってしまう気持ちにもなるでしょう。しかし、能力と絆は別ものです。自分が親であるという事実は変わらないのです。
子どもは親の影響を受けて育ちます。けれど完全に別人格の存在でもあります。
自分と似ていなくても、自分とそっくりでも、淡々とその子の人格を受けいれることができれば、互いに幸せだろうと思います。「こんな子に育ってほしい」というのも親のエゴかもしれないのです。
中野 信子
医学博士/脳科学者/認知科学者