老後の生活に欠かせない存在の「公的年金」。しかし、夫婦のどちらかが亡くなった際、年金収入がどれくらい減るか把握しているという人は多くないかもしれません。特に自営業を営む夫婦の場合、注意が必要であると、ファイナンシャルプランナーの山﨑裕佳子氏はいいます。山下さん(仮名)の事例をもとに、突如生活が困窮する「落とし穴」と、困窮した場合の「最後の手段」についてみていきましょう。
骨と皮だけ…「年金月5万円」で暮らす78歳母の変わり果てた姿に、住宅ローンと教育費に追われる「年収450万円」47歳長男がくだした〈究極の決断〉【FPの助言】
夫亡きあと、母の収入は「月5万円」…余儀なくされた“過酷な節約生活”
タケオさんの母・山下トキコさん(仮名・78歳)は、2年前に夫に先立たれ、それからは山梨県にある実家に1人で暮らしています。
夫は生前料理人で、中学を卒業してすぐ、隣町の中華料理店に住み込みで働き始め、23歳で母と結婚。28歳で独立し自分の店を開くと、以後、70歳までトキコさんと夫婦二人三脚でお店を切り盛りしてきました。
トキコさんの気さくな人柄や、リーズナブルな価格ながらボリュームのある料理が評判を呼び、地元では有名な人気店でした。
店を閉めてからは、夫婦2人の老齢基礎年金で生活していたトキコさんですが、夫亡きあと、トキコさんは自分の年金のみでやりくりする必要が出てきました。月額に直すと、その額わずか5万円です。預貯金もほとんどなく、家は古いながらも持ち家のため家賃はかかりませんが、食費、水道光熱費、日用品費といった毎月の支出があります。5万円でやりくりするのが厳しいことは、想像に難くありません。
しかし、「息子に負担をかけたくない」と、トキコさんは生活費削減のために節約生活を始めました。
わずか5万円の年金収入も「少しでも貯金したい」と、食費は月1万円程度を目標に、食事は1日2食に減らし、必ず自炊に。電気代節約のため、米は3日分をまとめて炊きます。ご近所から分けてもらった規格外の野菜も、皮や葉まで余すところなく調理して食べました。昨今の物価高も相まって、魚や肉を食べられるのは1週間に2回あればいいほうでした。
そんな生活を1年以上続けた結果、たびたび目まいやふらつきが起こるようになりました。そしてとうとうある朝、布団から立ち上がることもままならない状態となり、救急搬送されてしまったということです。
母親を1人にはできないが、助けるだけの金もない…
「助けてといって電話してくれたらよかったのに……」。自身も多忙な毎日を過ごしていたことから、母親がこうした厳しい状況で生活していたことなど知る由もなかったタケオさんは、激しく自分を責めました。
「母さんをこのまま1人にしておくわけにはいかない。これからの生活をなんとかしなければならないが、自分の生活も苦しい……いったいどうすればいいんだ?」焦るばかりで、名案はすぐに思い浮かびません。
「うちに呼び寄せるか……。でも住み慣れた土地を離れることになったら、母さんはきっと拒むだろう。それに、いきなり同居するなんて妻や子どもたちに言い出す勇気もないし、実際住むことになっても、空けられる部屋なんてない。だからといって、母さんに仕送りをする余裕もないしな……」
どうしたものかと悩んでいたところ、タケオさんは会社の福利厚生の一環でFPに家計相談をする機会があることを思い出しました。