老後の生活に欠かせない存在の「公的年金」。しかし、夫婦のどちらかが亡くなった際、年金収入がどれくらい減るか把握しているという人は多くないかもしれません。特に自営業を営む夫婦の場合、注意が必要であると、ファイナンシャルプランナーの山﨑裕佳子氏はいいます。山下さん(仮名)の事例をもとに、突如生活が困窮する「落とし穴」と、困窮した場合の「最後の手段」についてみていきましょう。
骨と皮だけ…「年金月5万円」で暮らす78歳母の変わり果てた姿に、住宅ローンと教育費に追われる「年収450万円」47歳長男がくだした〈究極の決断〉【FPの助言】
住宅ローンと教育費で家計は火の車…年収450万円会社員の「苦悩」
山下タケオさん(仮名・47歳)は大学入学を機に上京し、卒業後はそのまま東京の会社に就職しました。26歳で同じ会社の後輩と結婚し、翌年には長男が誕生。3年後には次男が生まれ、その2年後、タケオさんが32歳のときに神奈川県郊外にあるマンションを購入。中古で、3LDKの物件です。
47歳になった今、住宅ローンの返済はあと13年残っています。タケオさんの昨年の年収は450万円で、妻もパートで働いていますが、大学生と高校生になった子ども2人の教育費もあり、家計は“火の車”です。
「次男が大学を卒業するまで、あと数年の踏ん張りどころだ……」と仕事に精を出すタケオさんですが、慢性的に疲労を感じており、父亡きあと遠方に1人で暮らす母を案じながらも、なかなか実家に顔を出せずにいました。
「実は、お母様が…」息子のもとにかかってきた“1本の電話”
そんなある日のことです。仕事中のタケオさんの携帯に、見知らぬ番号から電話がかかってきました。不審に思いながらも応答すると、タケオさんも聞き覚えのある病院からでした。
「山下タケオさんの携帯でお間違えないでしょうか? こちらは山梨県〇〇総合病院です。
実は、お母様のトキコさんがさきほど、救急搬送されました」。
「なにがあったんですか?」驚いて、状況を尋ねるタケオさん。
「倒れてしまったようでして……。詳しいことは医師から説明しますが、命に別状はありません。いま点滴を受けており、検査入院のため、2、3日は入院していただくことになりそうです。できればご家族の方に病院に来ていただきたいのですが、可能でしょうか?」
「わかりました。明日、なるべく早く行きます」。タケオさんはすぐに勤務先に有給を願い出て、翌日、急いで病院を訪ねました。
話を聞くと、医師は母が倒れた原因について次のように話しました。「お母さまが倒れたのは、栄養不良によるものです。栄養不良というのは、生きていくために必要なエネルギーが不足している状態ですね。ただ、幸いなことに他に治療を必要とする疾患はありませんから、点滴をして様子を見ましょう」。
重い病気ではなかったことにいったん胸をなでおろしたタケオさんでしたが、「今の時代に栄養不良で倒れることなんてあるのか」と驚きました。タケオさんの記憶する母は元々瘦せ型ではありましたが、改めてベッドに横たわる母を見やると、たしかに以前にも増して痩せ細っています。
「なんでこんなに痩せこけてしまったんだろう。最近、めっきり実家に帰れてなかったからな……。話もできてなかったし、実はなにか困ったことになっているのかもしれない。申し訳ないことをした……」
後悔するタケオさんですが、トキコさんがこうなってしまったのには、切実な事情がありました。