職員数や給与を減らし、利益優先に…運営企業の闇

ここ数年、保育園不足を解消するため、保育園経営に外部の業界から参入しやすくする仕組みが作られたことも追い討ちをかけている。

先に述べたように、厚労省は保育園に、在籍する園児数に応じた配置基準分の人件費を、運営費に含めて支給しており、その額は運営費の約8割を占める(小林美希『ルポ保育崩壊』〔岩波新書〕に詳しい)。2000年以前は、運営費の使い道は厳格に決まっており、その約8割が、そのまま人件費にあてられていた。

これに、国が保育士の賃金に上乗せするよう支給している処遇改善等加算や、東京都独自の人件費への補助金を足すと、東京23区の保育園に勤務する経験7年目の保育士であれば、年収は560万円ほどになる。

ところが、2000年以降、新規事業者の参入を促すため、保育園が利益を確保しやすいよう、この運営費の使い道についての制限が緩和されたのだ。決定的だったのは、待機児童対策が過熱する中、2015年の規制緩和によって、株式会社が運営する場合は、保育士の人件費や保育園の運営に使うはずの運営費を、株主への配当にまで使えるようにしたことだ。

これでは、運営費に人件費として計上している意味がないのではないか。筆者は内閣府を訪れ、担当者に面談して尋ねたが、運営費の約8割が人件費というのは、あくまで「目安」に過ぎないから問題ないという答えだった。

かくして、保育士の数は配置基準ギリギリに抑え、配置基準の人数に応じて支給される金額を大幅にピンハネして利益を得る方法に歯止めがかからなくなった。8割支給からかけ離れた事業所が、非常に多くなっているのだ。特に株式会社が運営する保育園には、運営費のうちわずか2〜3割しか保育士の人件費に回っていないというケースまである。

フルタイム勤務なのに月給は20万円台前半、年収200万円台という保育士の相談者も珍しくない。非正規雇用の場合、時給が都道府県の定める最低賃金まで抑えられていたり、正社員でも、基本給が最低賃金レベルだったりする。

最近になればなるほど、保育に何の関心もなく、利益だけを目的とした経営者が増えてきた。経営者は園長に経営を「丸投げ」し、現場を取り仕切る園長は、会社の求めに応じて利益を上げるため、ひたすら「コストカット」に励む。株式会社だけでなく、社会福祉法人が経営する保育園でも、この規制緩和の恩恵を受けようと、職員数や給与を減らすなど、利益優先の傾向が強まっている。

坂倉昇平
ハラスメント対策専門家