“人格否定”も“無視”も「指導のうち」という理不尽

20代のGさんは、150人の園児を抱える大規模な保育園で働き始めた1年目の正社員保育士である。

入社前の面接の雰囲気は良かったのだが、いざ働き始めてみると、自分だけ目をつけられ、主任から「指導」と称して「バカ」などと人格を否定する発言をされた。Gさんは、「指導」を受けるたび、ひたすら謝り続けなければならず、食欲がなくなり、眠れないなどの症状に悩まされるようになった。

また、この主任はその日の気分で態度が変わり、無視されるなどの嫌がらせが半年以上続いた。

園長に相談したところ、特に問題視する様子はなく、「新人は怒られて成長するもの」と説明され、全く対応してくれなかった。

そもそも残業はほとんどないと聞いていたのに、毎朝7時40分に出勤してから、19時頃まで働かされ、しかも残業代は払われたことがない。心身の調子を狂わせたGさんは、保育業界は自分には合わないとあきらめ、1年で退職するつもりだ。

背景には、深刻な人手不足

一見、人間関係のもつれにも見える保育職場のいじめ。しかし、そこに共通するのは、人手不足による過酷な労働である。

では、なぜ人手不足が生じるのか。もともと保育園には、国の定める保育士の配置基準の人数が少なすぎるという問題がある。年齢ごとの園児の人数に応じて、最低限必要な保育士数を定めているのが配置基準で、行政が保育園に払う運営費には、その配置基準分の人件費が含まれている。

しかし、この配置基準は園児数に対して必要な保育士数を非常に少なく定めており、運営費の中の人件費はその配置基準分しか支給されない。つまり、配置基準より多い保育士を雇っても、追加の人件費は払われないのだ。そのため、保育園は保育士の数をギリギリまで抑え込むことになる。

そして、2021年からは、この配置基準がさらに緩和され、従来は正社員の保育士がいなければ認められなかったクラスの担任を、非正規保育士(多くが主婦パートだ)だけでも可能にした。人手不足を、保育士の数を増やすのではなく、非正規保育士の負担を増やすことで対応しようとしているのだ。

こうした結果、一人の保育士で多くの子どもたちの対応をしなければならず、休憩時間を取るどころか、終業時間までトイレにも行けないほどの、ひどい働き方が求められるようになった。いつ事故が起きるかもしれない恐怖と隣り合わせの中、心身ともに疲弊する保育士が続出している。