(※写真はイメージです/PIXTA)

なんらかの症状を覚えて医療機関を受診する際、どの医療機関を受診するかは、インターネットのホームページや口コミサイト、あるいは人づてに評判を聞いて決めることが多いといえます。その際、駅からの距離やアクセス、診療時間と曜日などの利便性・近接性もありますが、コアとなる「どのような医師が診療しているか」という点は避けられません。近年では「専門医資格」という概念が、医療職のみならず一般の方にも浸透してきていますが、この専門医資格のライセンスは、勤務医・開業医のキャリアや患者様の受診行動にどのような影響があるのでしょうか。本連載は、コスモス薬品Webサイトからの転載記事です。

そもそも「専門医資格」とはなにか

専門医とは、特別な腕や技術・接遇に優れた「スーパードクター」のことではありません。各診療領域で適切な訓練・教育を受けて経験を積み、地域住民などの患者から信頼構築・継続が可能である「当該診療科の標準的な医療が提供できる医師」であり、十分な知識・経験があることが保証されているドクターのことです。

 

各科目の専門医資格取得には、各都道府県における研修プログラムにエントリーして、4年程度の専門研修プログラムを受けるほか、一定数の症例や手術記録などの提出が必要となります。その後、筆記試験・面接試験などの試験に合格することによって、晴れて専門医の資格を得ることができます。この試験の合格率は診療科ごとに異なりますが、おおよそ75~80%程度と、医師国家試験の90%と比べ、やや厳しくなっています。

 

2018年に新専門医制度が開始されたことにより、一般の患者様にも専門医のありかたが浸透し、透明性も高まってきています。

 

極論を申し上げるなら、日本では専門医の資格がなくても医師としての勤務は可能です。とはいえ、とくに勤務医の場合は、勤務する医療機関の規模が大きくなるほど、専門医資格がある程度ないと「医長」「部長」「診療部長」などの上級職への昇進が困難になるのが現状です。

勤務医の待遇向上には「専門医」の肩書が不可欠

勤務医が職位やそれに伴う給与・待遇の向上を図る際、また入院病床を持つ医療機関で専門的な治療を実施継続していくには、専門医の肩書がより重視される傾向にあります。

 

医療機関で一人前とみなされる基準として、基本領域の診療科(内科・小児科・産婦人科・外科・など)の専門医資格取得が1つの基準となっているのも事実です。

 

また、専門医の在籍により、病院の評判も上昇します。厚生労働省が提供する医療機能情報提供制度(医療情報ネット)では、専門医の在籍状況を検索することができます。

 

このほか、勤務医が専門医資格を複数取得するメリットとしては、同じ現場で勤務する、他科の医師や看護師などの医療従事者からの信頼感も専門医資格があることによって高まりやすく、職場になじみやすい傾向があります。実際の患者対応をしないと不透明かもしれませんが、専門医資格の保有で好印象となる可能性はあります。

 

このように、大学病院・地域基幹病院などの急性期医療機関では、専門性の高い治療と知識が求められる背景から、専門医資格は重視される傾向が高いといえます。

クリニック経営では「専門医」の肩書の重要度は低い傾向に

その一方、クリニック、小規模病院、訪問診療などでは、専門性の重要度が低い傾向があるため、一部の診療科を除いて専門医・指定医資格による待遇の違いは少ないとされています。

 

就職面接でも、規模の大きい医療機関ほど専門医資格や学位など、信頼できる資格を重視する傾向にありますが、クリニックの面接では集患・経営という点で人柄を重視し、所有している専門医資格は確認程度で終わることも多くあります。

 

とくに開業医の場合は、専門医資格がない医師でも、コミュニケーション能力や医学的知識、技術があれば地域で重宝され、盛業しているクリニック(一般外来、在宅含む)も多くあります。

 

クリニックなど個人の開業医では、人柄やコミュニケーション能力などの接遇、集患などのマーケティング、人事・収支管理などのマネージメント能力など、医師の専門性とはまたことなった分野の能力を求められるのです。

院長のキャリア・専門医資格の有無を見て、クリニックを選ぶ時代に

とはいえ、2002年からは開業医も専門医資格の広告標榜が認められており、患者様も院長のキャリアや専門医資格の有無などを含めて、受診するクリニックを選ぶ時代になっています。このことからも、最低限の1つでよいので専門医の資格を取得したほうが、集患には有利な傾向があるといえます。

 

とくに小児科では、従来とは異なり、診療の参入障壁が低くなりました。これは、総合専門医や家庭医など、疾患ではなく、人・家族を診療する「あなたの専門医」という新概念のもと小児の一般外来や予防接種・健康診断も手広く実施する医院が増えたためです。

 

これに対しては、「小児の診療は、しっかりとした経験・教育訓練が証明されている「小児科専門医」に診療すべきだ」という意見もあり、医師間においても意見が分かれている現況もあります。

「専門医」の概念が一般の方にも注目されるようになってきた

このように、自分がどのようなキャリアを目指すかにより、専門医資格取得の有無やサブスペシャリティの専門医資格の取得など、キャリアプランは大きく変わってきます。

 

専門医の資格は、実際の資格が存在していなければ、インターネットなどで表記はできません。

 

専門医という概念が一般の方にも注目されるようになってきた昨今、勤務医というキャリアでは複数の専門医資格はキャリアアップなどで重要視されます。開業医の場合は人柄・コミュニケーション・クリニックの雰囲気やスタッフの対応など、医師の技量以外の部分が集患に占めるウェイトが大きいですが、最低1つの専門医資格で十分なトレーニングをされたと判断されます。

 

いずれの場合でも、専門医資格の肩書きそのものよりも、専門医資格を取得するまでの4年以上の修行で得られた知識・技術・論文の書き方、他職種や他科医師とのコラボレーションなどで得た経験こそが、医師としての活動に活きてくるのではないかと思います。

 

 

武井 智昭
株式会社TTコンサルティング 医師