夫(妻)が定年になったタイミングで離婚する「定年離婚」。退職金も入るため、それを財産分与することにより、夫婦の離婚後の生活もある程度維持できると見越しています。「第二の人生は自分の自由に歩みたい」と希望して離婚に踏み切るパターンです。本記事では、Aさんの事例とともに昨今増える定年離婚について、FP1級の川淵ゆかり氏が解説します。
〈退職金2,000万円・年金月20万円見込み〉達成感を胸に定年した60歳夫との「熟年離婚」を決めたパート妻…原因は「夫そっくりな実家暮らしの27歳息子の挙動」【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

年金分割を行った場合、老後は生活できるのか?

日本の公的年金は2階建てになっており、1階部分が国民年金(基礎年金)、2階部分が厚生年金になっています。このうち年金分割の対象となるのは、2階部分の厚生年金のみで、国民年金(基礎年金部分)は対象ではありません。また、厚生年金部分も婚姻期間のみの部分が分割されることになっています。

 

自動的に半分ずつになる「3号分割」と、割合を決める「合意分割」

年金分割には「3号分割」と「合意分割」の2つの制度があります。年金分割は、どの夫婦でも半分ずつになるかというと、そういうわけではありません。自動的に2分の1の分割になるのは、「3号分割」の場合です。「3号分割」の3号とは、専業主婦などの第3号被保険者のことで、この制度により分割されるのは、平成20年4月1日以後の国民年金第3号被保険者期間に限られます。もう一方の「合意分割」は、2人の合意や裁判手続きにより年金分割の割合が決まるというものです。

 

どちらも請求期限(離婚をした日の翌日から起算して2年)を経過していないことが条件となっています。そのため、もし遅れてしまうと年金分割はできなくなります。

 

年金分割の対象となるのは、婚姻期間の厚生年金部分だけですし、自営業などで国民年金だけの場合は年金分割の対象になりません。また、年金分割の年金と自分自身の年金と合わせてもそれほど多くはありませんので、年金だけに頼ると老後は厳しい暮らしになってしまうでしょう。しっかりとしたマネープランをもとに離婚を考える必要があります。

 

退職金も分割の対象

なお、退職金についても分割は可能です。Aさんのように定年まで1つの会社を勤め上げると退職金も大きくなりますが、こちらも婚姻期間の長さによって妻側が受け取ることができます。Aさんのように退職金の金額がはっきりしており、手を付けてしまう前の状況は妻側からすればベストのタイミングといえるでしょう。

離婚理由に検討もつかない夫

Aさんは離婚を切り出された理由がさっぱりわかりませんでした。ギャンブルもせず、浮気がバレたということもありません。これまで大きな病気もせず、真面目に仕事をしており、妻から見れば自分は合格点の夫だとばかり思っていました。