教育虐待は、子どもたちの心に深い傷跡を残すだけでなく、社会全体にも大きな影響を与えます。学力低下や社会適応の困難、精神疾患の発症など、教育虐待を受けた子どもたちはさまざまな問題を抱え、結果として生産性が低下する可能性が高まります。これは、社会全体の人的資本を減らし、経済成長を阻害する要因となりうるでしょう。また、医療費や社会保障費の増大にもつながり、経済的な負担を増やすことも。教育虐待は、子どもたちの未来だけでなく、社会全体の持続可能な発展を阻む深刻な問題です。本記事では、子どもこころ専門医・指導医である舩渡川智之氏監修の書籍『思春期の子の「うつ」がよくわかる本』(大和出版)より、教育虐待が子どもに与える影響について詳しく解説します。
振り返ればあれは教育虐待だった…「なぜできないの」「一番でなければダメだ」加熱する受験戦争、熱心な親に心を引き裂かれる子どもたちの悲鳴 (※写真はイメージです/PIXTA)

本当に「あなたのため」?教育虐待に注意

教育への過熱が教育虐待につながる

受験には、親のサポートが必要ですが、過熱する受験競争に、親のほうが熱心になりすぎて「教育虐待」につながるケースも増えています。教育虐待とは、子どもの教育に過干渉し、子どもの心身に悪影響を与える行為を指します。

 

子どもの許容量を超えた学習の強要、子どもの興味や適性を無視した進路決定、また成績がふるわないと罵倒したり。「一番でなければダメだ」「なぜ満点がとれなかった」と叱責するというケースもあります。

 

成人してからもうつに苦しむ人がいる

こうした親からの心理的虐待は、本人の自尊感情を著しく低下させます。皮肉なことに、学習意欲を低下させ、学力が低下していくこともあります。さらに、後からさまざまな問題を引き起こす恐れもあります。激しい暴力や暴言、万引きなどの非行、摂食症、不登校やひきこもりの引き金にもなりがちです。成人後も、うつなどに苦しみ続ける人もいます。

 

実際、小児期に言葉の暴力をくり返し受けると、脳の発達に悪影響を及ぼすことがわかっています。脳の効率的な情報伝達網を阻害し、知能や理解力の発達にダメージを与えます。

 

「どうせわからない」と思っていない?

親は子に、つい「あなたのため」と言ってしまいがちです。その言葉の裏には「どうせあなたにはわからないから、私の言うことを聞きなさい」という気持ちがありませんか? 意志を抑圧され、自我の芽を摘まれてしまうと、自己形成に影響を及ぼします。

 

親の理想を押しつけていないかふり返ってみましょう。

 

 

舩渡川智之

子どもこころ専門医・指導医