昨今、スマートウォッチやウェアラブルバンドはじめ、健康データを日常的に計測、記録できるデバイス「健康トラッカー」への注目が高まっています。製品ごとに違いはありますが、心拍数、ストレスレベル、血中酸素濃度、活動量、皮膚温度、睡眠の質、心電図、血圧などを測定することができ、年に1度の健康診断では気づけない日常的な身体の変化をキャッチしてくれます。アラフィフの筆者も健康が気になる年齢なので、お酒を飲み過ぎた日の翌日に睡眠の質が悪かったと反省したり、トレスレベルが高い時は散歩したりと、毎日スマートウォッチを使って生活改善に取り組んでいます。今回は、健康トラッカーの最前線についてお伝えします。
自分の体を“見える化”する健康トラッカーのイノベーションと未来 (※写真はイメージです/PIXTA)

期待される非侵襲型の血糖値測定…課題も

未来の健康トラッカーで特に注目を集める分野がリアルタイムの血圧測定と非侵襲型の血糖値測定です。

 

リアルタイムの血圧測定は光学センサーで血流を測定する手法が用いられていますが、精度が低いことが欠点です。日本オムロン、中国ファーウェイは一般的な血圧計と同じ、カフで加圧して血圧を測定できるスマートウォッチを発売しています。いずれも医療機器認証を受けており精度の高さは保証されていますが、カフがついている分、装着感は悪いのが難点。

 

また、測定時には安静にし、手首を心臓の位置に上げて固定する必要があります。いつでも血圧計を装着している状態ですが、測定には1~2分の安静が必要で、リアルタイム測定とはいきません。

 

ファーウェイは今年、新たな血圧測定機能付きスマートウォッチ「ファーウェイWATCHD2」を発売。光学式と加圧式の2つの測定法を導入し、日に数回加圧式で測定することで、そのデータによって光学式測定の結果を補正し、精度をあげるという手法です。「それなりの精度での、24時間リアルタイム血圧測定」は今まで実現していなかっただけに、注目のガジェットとなります。

 

ファーウェイが最初に発売した「HUAWEIWATCHDウェアラブル血圧計」(提供:ファーウェイ)
ファーウェイが最初に発売した「HUAWEIWATCHDウェアラブル血圧計」(提供:ファーウェイ)

 

もう一つ、長年期待され続けているのが非侵襲型の血糖値測定です。先に紹介した「FreeStyleリブレ」はボタン型端末に小さな針がついていますし、端末は2週間ごとの使い捨てです。もし、スマートウォッチなどの一般的な健康トラッカーで血糖値を測定できれば大きな進化となります。

 

国際糖尿病連合(IDF)の発表によると、世界の糖尿病患者数は2021年時点で5億3,700万人にまで増加しました。この数はさらに増え続け、2045年には7億8、300万人に達するとの見通しです。こうした人々に加え、ダイエット需要も含めると、非侵襲型の血糖値測定は巨大マーケットです。

 

米アップルや韓国サムスンといったビッグテックは長年、研究開発を続けてきました。「もうまもなく登場」という噂が流れたことも一度や二度ではありません。今年もサムスンの新型スマートウォッチに血糖値測定機能が搭載されるとのリークが流れましたが、実現しませんでした。血圧同様、光学センサーを用いて血糖値が測定できるという触れ込みの健康トラッカーもいくつか発売されていますが、いずれも大手ブランドのものではなく、正確性は疑問視されています。

 

光学センサーによる血糖値測定は誤差が大きいことに加え、検査ミスによる弊害が大きいことが課題です。米食品医薬品局(FDA)は今年2月、現在発売されている非侵襲型の血糖値測定機器をしないように呼びかけています。不正確な測定をもとにインスリンなどの薬剤を使用すれば事故につながりかねないとの危惧があるためです。血圧と違って一歩間違えれば大事故につながりかねないだけに、非侵襲型の血糖値測定実現のハードルはかなり高いのが実情です。

 

難しい技術もありますが、健康トラッカーの技術発展が急ピッチで進んでいることが事実です。どうなれば健康な生活を送れるのか、あいまいな直感ではなく、客観的な数字に基づいて生活改善できる健康トラッカー、今後もますます普及していく製品となるでしょう。


 

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[プロフィール]

高口康太

ジャーナリスト、千葉大学客員准教授。2008年北京五輪直前の「沸騰中国経済」にあてられ、中国経済にのめりこみ、企業、社会、在日中国人社会を中心に取材、執筆を仕事に。クローズアップ現代」「日曜討論」などテレビ出演多数。主な著書に『幸福な監視国家・中国』(NHK出版、梶谷懐氏との共著)、『プロトタイプシティ深圳と世界的イノベーション』(KADOKAWA、高須正和氏との共編)で大平正芳記念賞特別賞を受賞。