iX+(イクタス)』からの転載記事です。
※本稿は、テック系メディアサイト『空中写真をAIが分析、半年間で303の「ナスカの地上絵」を発見
はじめにご紹介するのは、AIを「ナスカの地上絵」の発見に活用している事例です。
南米ペルーの「ナスカの地上絵」を研究する山形大学の「山形大学ナスカ研究所」は、IBMワトソン研究所との共同研究プロジェクトで、ナスカの地上絵の調査にAIを活用。AIに空中写真を分析させ、わずか6カ月間で303個の新しい具象的な地上絵を発見するなどの成果をあげています。
山形大学ナスカ研究所はこれまで、人工衛星や航空機、ドローンなどによるリモートセンシング技術・AI技術を用いて、動物や植物、道具などを描いた318個の具象的な地上絵を発見していました。ただ、ナスカ台地は約400平方キロメートルにもおよぶ広大な地域であることから、高解像度の航空写真をすべて目視で確認して現地調査することは時間的に難しいという課題も。効率的な現地調査を行うためには、地上絵が分布している可能性が高い場所を同定する必要がありました。
そこで同大学ではIBMワトソン研究所と提携し、IBMが開発した少量のトレーニングデータで高いパフォーマンスを発揮する強力なAIモデルを活用。飛行機から撮影した膨大な量の空中写真をAIが分析することで、地上絵が存在する可能性の高いエリアを特定できるようになったのです。
調査では、合計1,309件の有望な候補が特定され、その約4分の1の候補を現地調査した結果、6カ月間で303件の新たな具象的地上絵を発見。IBMのAIを使用することで、地上絵の発見速度は16倍にも高まりました。さらに、今後、地上絵の可能性が高いと特定した968の候補地についても現地調査を行うことで、より多くの新たな地上絵が発見される可能性も。
同大学では今後、IBMの地理空間基盤モデルを活用してAIの能力をさらに向上させることでより多くの地上絵の発見が期待できる可能性があるとしており、これからますますAIを活用した地上絵調査の取り組みは注目を集めそうです。
AIが古墳の形状を学習、立体地図上から未発見の古墳を発見
次にご紹介するのは、3次元地形デジタルデータと機械学習の解析プログラムと膨大な遺跡情報を組み合わせ、遺跡を新発見する試みです。
従来、山中での遺跡踏査は労力がかかり危険度も高いため、山間部の遺跡は未発見の場合がありました。そこで、効率的に遺跡を発見する手法を確立できれば、歴史研究を加速させ、文化財保護にも貢献できると考えた奈良文化財研究所は、「高密度な地理データ」と「機械学習プログラム」と「大量の遺跡情報」の組み合わせが調査手法のブレイクスルーとなり得ると発想。機械学習プログラムを活用する研究を進めました。
研究は、2021年7月から2023年3月の期間に実施。同研究では、地形デジタルデータは兵庫県が公開している高精度地形データを活用。研究工程としては、既知の遺跡を参考にしながら前方後円墳や円墳などの形を特徴形状として整理し、教師データを作成。そして、県内全域でその特徴に適応した新発見遺跡候補を自動解析して位置情報と画像をアウトプットするプログラムを作成し、AIによって出力された新発見遺跡候補を絞り込んだのち、確度が高そうな候補を現地調査する……というのが大まかな流れです。
古墳が存在する可能性が高いエリアをAIが予測してスコア化し、立体地図上で可視化できるのが特徴で、同研究では4回の現地踏査を経て、30以上の遺跡を新たに発見しました。
奈良文化財研究所では、今後、地形データのさらなる高精度化や、教師データとなる遺跡位置情報の増加、機械学習ライブラリの性能向上などにより、さらに的確に遺跡候補地を抽出できるようになるとしています。成果報告書はこちら(リンクhttps://sitereports.nabunken.go.jp/132481)で公開されています。