穏やかな年金生活が始まったと思った矢先、巣立ったはずの娘がまさかの帰還。我が子が困っているのなら、手を差しのべてやりたいと思うのが親心というものです。しかし、過度な援助がお互いにとって悲惨な結果をもたらすことも……。本記事では、離婚した一人娘とその孫と暮らすことになった小林清さんを例に、年金暮らしの60代後半夫婦とシングルマザーの娘の家計管理のポイントについて、南真理FPが解説します。
年金月22万円、貯金3,000万円で穏やかに暮らす60代夫婦が一転、老後破綻に脅える毎日へ。原因は離婚して実家に舞い戻った「35歳の甘ったれ娘」【FPの助言】
娘さおりさんが経済的に自立するには?【FPの助言】
FPは、小林さん一家の生活を守るためにも、娘さおりさんの経済的自立が必要であると伝えます。
①家計現状の把握
まず、小林さん一家の家計状況を把握しましょう。
〈相談者プロフィール〉
夫 小林清さん(69歳):無職(元会社員)
妻 小林美紀さん(67歳):無職(専業主婦)
長女 小林さおりさん(35歳):無職
孫 小林圭太くん(5歳):幼稚園の年中
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〈家計の年間収入〉
年金合計額 約290万円(手取り年260万円、月22万円)
夫 清さん 年金:206万円
妻 美紀さん 年金:81万円
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〈家計の年間支出〉
年間支出合計:年445万円
生活費(食費・日用品費・光熱費・通信費等):年192万円
(子と孫にかかる生活費年100万円(※))
住居費(含む固定資産税):年10万円
保険料(医療保険):年6万円
車両費(保険代・ガソリン代):年22万円
車の買替費用(※):150万円
幼稚園代(※):年19万円
習い事代(※):年12万円
レジャー・旅行代(※):年34万円
(※)は、子と孫にかかった費用:合計約300万円
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〈小林さん夫婦の貯蓄額〉
預貯金:2,800万円(同居する前は貯蓄額3,000万円)
車の買替費用150万円があったため、同居1年目の家計収支は約200万円の赤字です。来年以降も小林さん夫婦が子や孫にかかるすべての費用を含む家計の支出を負担するのであれば、小林さん83歳・妻美紀さん81歳時 までに、約1,100万円貯蓄の取り崩しをせざるを得ず、貯蓄額は2,000万円を下回ります。
小林さん夫婦だけであれば、80歳を超えて2,000万円の預貯金と公的年金があるため、介護等も含め生活は成り立つ可能性は高いです。しかし、夫婦亡き後のさおりさんの生活までとなった場合には、今のまま仕事もせず無収入となれば、厳しい現実が待っているのではないでしょうか。
②経済的自立
さおりさんは、経済的に自立し、長期的に安定した収入源の確保をする必要があります。ひとり親の経済的支援として、児童扶養手当があります。児童扶養手当は、離婚などを理由にひとり親家庭となった場合、子が18歳に達する日以後の最初の3月31日まで支給されます(*3)。
全部支給であれば、月額4万5,500円、一部支給であれば月額4万5,490円~1万740円となっています(令和6年4月時点)。所得制限が設けられており、収入によって受給額が決まります。加えて、ひとり親に関わらず児童手当が月1万円支給されます。
しかし、児童扶養手当と児童手当だけでは経済的自立は実現しません。さおりさんは仕事を見つけ働く必要があります。シングルマザーを対象とした就業支援には、国や自治体、NPO団体などが提供する様々なプログラムがあります。
例えば、ハローワークにはマザーズハローワーク (*4)という子育て中の母親に特化した就業支援を行っている専門窓口があります。求人の紹介やキャリアカウンセリング、職業訓練の案内を受けることができ、子連れで相談ができるキッズスペース付きの施設もあります。
また、自立支援教育訓練給付金(*5)という制度をご存じでしょうか。母子家庭の母又は父子家庭の父の能力開発の取組みを支援するもので、対象の教育訓練を受講し、終了した場合にその経費の6割が支給されます。なお、支給には要件がありますので、事前にお住いの自治体に相談するようにしましょう。
さおりさんがこれから経済的自立を目指すには、厳しい現実が待っているかもしれません。しかし、幸いにも家族がそばにいてくれています。様々な支援を活用しながら、長期的に安定した収入を得られるよう今から行動する必要があります。