「こんなはずじゃなかった..」と、退職金の運用で後悔する人は少なくありません。今回ご紹介するのは、銀行員に勧められるまま退職金の半分を使って外貨建て保険に加入した、田中栄太郎さん(仮名)の事例。人生100年時代に備えて資産形成をしたいと思った田中さんに、いったい何が起きたのでしょうか。シニア世代の資産運用の落とし穴とそれを避ける方法を、大手銀行に長年勤務した経験を持つFPの青山創星氏が詳しく説明します。
後悔しかありません…退職金1,000万円で銀行員に勧められるがまま「外貨建て保険」を契約した65歳・元会社員の悲惨な末路【FPの助言】
得するはずと考えて加入した保険の「3つの問題点」
田中さんが申し込んだ外貨建て一時払終身保険は、保険料を米国債などの外国債券で保険会社が運用するというものです。この投資には、3つの大きな問題がありました。
1. 為替リスクの大きさを理解せずに、大金を一気に米ドル資産に投資したこと
この商品のように外貨建て債券に投資する商品の場合は、大きな為替リスクがあります。いくらの円高までなら元本が確保できるかなどのシミュレーションは必須です。
2. 商品の仕組みをしっかり理解せず、高い手数料で信用リスクの高い商品に投資したこと
この商品では10年経過未満の解約の場合には、解約控除率(手数料)がかかる、米国債金利などの基準金利からは保険関係費用が差し引かれ、保険会社の裁量で数%の調整があるなど、わかりにくい金利(積立利率)設定となっています。
さらに、米国債に直接投資する場合は米国の高い信用力を得られますが、保険を通じた投資では保険会社の信用リスクを負うことになります。死亡保険金額は積立金相当額と解約返戻金額のいずれか大きい金額に留まり、保険機能は限定的です。
3. 為替レートが購入時より円高で、しかも購入時より金利が高くなっていたという最悪のタイミングで解約してしまったこと
購入時より円高のときに解約すると為替損失が発生し、金利が高くなったときに解約すると市場価格調整(手数料)もかかります。
[図表1]のグラフを見るとわかるように、田中さんの投資期間近くではほとんどのタイミングでオレンジ色の線(ドル円の為替)と青色の線(米20年国債利回り)は逆方向に動いていました。つまり、米国債投資にとって為替と金利の関係が補完関係(片方がマイナス要因になる場合はもう一方がプラス要因になる)にあることが多かったのです。
しかし、田中さんは、3.95円の円高と0.26%の米金利上昇という米国債投資にとっての2つのマイナス要因が同時に起きるという、この期間ではとてもまれで最悪の時期に解約してしまいました。急速な円高への恐れからの行動ですが、理性を失い感情に走る行動は投資にとって最も避けるべきことです。
外資の成果を評価、比較する場合は、元本が何倍になったかではなく、年利回りで比較しないと判断を誤りやすいのです。田中さんが説明を受けた「10万ドルが20年間で21万ドルになる」というのは、複利利回りにすると3.8%、40年間で40万ドルになるというのは3.5%です。しかも、これはドルベースでの利回りであり、円ベースでは確定しません。
田中さんが投資した保険に今投資すると複利利回りは3.65%です。20年の米国債に直接投資すると複利利回り4.14%です。20年後の金額は、米国債に投資した場合に比べてこの商品に投資した場合の方が(為替変動がないと仮定した場合)約300万円少なくなってしまいます。手数料が高いためです。
つまり、本当に顧客のことを考えるのであれば、保険よりも米国債に直接投資するほうが有利だと教えるべきなのです。しかし、米国債を売っても証券会社の儲けはとても少ないので、宣伝すると赤字になってしまいます。一方、保険は手数料が高いので、広告費や人件費をかけても儲かるのです。だから積極的に売ろうとするわけです。
また、注意すべき商品として『通貨選択型変額終身保険のターゲットタイプ』もあります。これは今、銀行などの販売会社の姿勢に問題があるとして金融庁が注意喚起している商品の一つです。
この商品は、目標額に達すると自動的に円建ての終身保険に移行します。その時点で一度解約させて、同時に同一商品の再購入を勧められる事例が多く報告されています。なぜこんなことをするのかといえば、販売会社側が手数料を二重取りできるからです。